超冷中性子の重力による束縛状態の精密測定において、CCDに10Bを蒸着した測定器を開発してきたが、昨年度にCCDをback-to-backにサンドイッチして、その間に10Bを蒸着すれば、中性子と10B が反応して生じた2個の荷電粒子であるリチウムと3重水素の両方が測定でき、これにより位置測定精度が大幅に改善できることが分かった。更にCCDでなくピクセル測定器を用いれば、バケットの転送によるノイズがなくなるために、更に制度が良くなるはずである。この新しい測定器の詳細なシミュレーションを行い、位置精度を従来の3 μmから0.5μm程度までに改善できることが分かった。位置測定精度が改善されると、従来用いていた増幅のための凸面鏡も必要なくなり、直接的に位置を測定でき、系統誤差も減らすことができる。量子状態の存在確率の測定を行って、これが重力の束縛状態として理解できることを証明したが、一歩進んで、量子力学における弱い等価原理を証明する実験が可能なことを内田健太氏(大学院生)が解明した。即ち、中性子の重力質量と慣性質量が等しいことを量子力学において証明できることが分かった。主量子数を3位までに限定するために、スリットの高さを低く設定して、超冷中性子フラックスに対してチョッパーを上流においてバンチ化させて、高速のピクセル測定器によって存在確率の時間発展を測定できれば、位置と時間の固有情報 (l0 = (h/2mimgg)1/3、t0= (2mih/mg2g2)1/3)によって、重力質量miと慣性質量mgを同時に測定できることが分かった。これらの実験を行うにはフラックスの大きな超冷中性子源が必要であり、今まで測定していたLaue Langevin 研究所 (ILL) の超冷中性子ビームラインではフラックスが足りないので、スイスのPaul Scherrer Institut (PSI)のビームラインを用いることを検討しており、実際に当地でセミナーを行い、研究者との交流を行っている。
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