研究課題/領域番号 |
24340056
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
相良 建至 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (00128026)
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研究分担者 |
藤田 訓裕 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60532364)
寺西 高 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10323495)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 天体ヘリウム燃焼 / 炭素ーヘリウム核融合 / 全断面積直接測定 / 極低バックグランド |
研究概要 |
星でのヘリウム燃焼を担っている炭素-ヘリウム核融合反応は重心系エネルギーが0.3MeVで起こっている。この反応の全断面積を0.7MeVまで測定し、星での値を外挿で求めるのが最終目的である。H25年度には、1.2MeVでの測定に世界で初めて成功した。エネルギーが低いとクーロン反発で反応が起こりにくく、測定に時間がかかりバックグランド(以下BG)が相対的に大きくなる。それゆえ我々以外では1.9MeVまでしか測定できていない。 我々は、炭素ビームをヘリウム標的に入射し、反応後の酸素を同方向に来る炭素ビームと分離し検出する。BGの殆どはビームが真空容器内壁等で散乱した炭素である。炭素BGは、これまでに開発した種々の装置・手法で除去してきた。1.2MeV測定では酸素BGが問題になり、これを低減するのに1年半かかった。炭素ビームが酸化容器壁の酸素を叩き出して酸素BGを発生していると判明し、酸化しない金で壁やスリットを覆ったが不十分であった。最終的には、ビーム径を絞り容器内径を大きくして酸素BGを低減して、1.2MeVでのテスト測定に成功した。 その後は1.2MeV本測定を後回しにし、1.0MeV測定の準備をした。1.0MeVでは1.2MeVより断面積が約1/5なので、BGが相対的に5倍、そのままでは測定時間が5倍になる。前段バンチャーを開発してビームパルス化効率を2倍にした。BG低減のため、飛行時間差測定装置を理研から借用して改造を始めた。反跳粒子分析器を大口径に改造した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、大量の炭素ビームをヘリウム標的に入射して、微量の生成酸素粒子を検出する。炭素バックグランド(以下BG)の対策は以前から行ってきたが、1.2MeV測定で初めて酸素BGの除去が必要になった。酸素BGの低減に種々の試行錯誤をして1年半かかった。ビームの当たる装置を酸化しない金でメッキし、金蒸着し、金薄膜で覆ってみたが、効果はいまひとつであった。最終的に、ビームの径を絞って固定し容器内径を大きくし、ビームが容器内壁に当たらないようにして、1.2MeVテスト測定にやっと成功した。これに時間がかかった。開発研究には想定外の障害がつき物であるが、大学院生を多く抱えての試行錯誤の連続で、九大タンデム加速器のシャットダウンも迫っており、大変な思いであった。 本研究での測定には、大量炭素ビーム、膜なしで厚いHe気体標的、効率よい検出器、長い測定時間、極低BG環境、が必要である。極低BG環境の実現だけが予測がつかず、新たなBGに出会って発生源を調べて対策を試行錯誤するしかないので、計画通りに行かないことがよくある。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度に1.2MeVでの最終実験を行い、その後1.0MeV測定に入る。そのためのパルスビーム強化、反超粒子検出器の大口径化、飛行時間差(TOF)測定装置の開発は既に進んでいる。BG調査を5月に開始する。九大キャンパス移転でタンデム加速器が使えるのは12月までであり、何としてもそれまでにBGを低減して1.0MeV測定を完了したい。 最終目的達成には1.0MeV測定の後に、0.85MeV測定と0.7MeV測定が必要である。測定する反応断面積は、1.0→0.7MeVで約1/100に減る。即ちBGが100倍増える。実に大変な実験であるが、星の進化解明には不可欠である。タンデトロン加速器を導入すればビーム量を数十倍増やせる。実験期間も1ヶ月程度に延ばせば数量的な問題は解決できる。しかしBGを更に1/100に低減する(BGをビーム炭素粒子数より19桁以上少なくする)のは至難のことであろう。 0.7MeV測定は、これまで九大で開発した装置・手法と、タンデトロン(約10億円)と、至難のBG削減を知恵と執念で成し遂げる稀有な研究指導者が居れば出来る。当面は1.0MeV測定に集中するが、やがて九大で開発した装置・手法は全て公表する。稀有な研究指導者に本研究を引継いで頂きたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.2MeV実験がBG低減で手間取ったので、1.0MeV実験に備えた飛行時間差(TOF)装置の開発が遅れた。例えばTOF装置専用大型真空箱の設計が不十分だったので次年度早々に製作し、周辺機器も次年度に購入することにした。そのため次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、TOF装置専用真空箱とMCP検出器保管真空容器の製作や付属真空部品等の購入に充てる。既に真空容器の設計を進めている。TOF装置のテスト運転は5月中に開始する予定である。
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