研究課題
実験的にππ散乱の散乱長を低エネルギーで測定できれば色閉じ込め領域でのQCDの良い検証となる。π+π-原子を生成し基底S状態の崩壊寿命を測定すれば、 散乱長差|a0-a2|(添字isospin)を求めることができる。この値は我々の実験で4%の精度で求められた。今回の研究では、π+π-原子の準安定PとS状態間のエネルギー差ΔEが(2a0+a2)に比例する事に着目し、このラムシフトを測定すれば 寿命測定とあわせてa0 とa2を分離して求めることができる。この測定方法は、崩壊前後で核子の寄与がないモデルに依存しないので精度よく散乱長を求めることになる。2013年度6月までにPSのT8コースからのスペクトロメータの撤去を完了しSPSでの実験準備を始めた。新dE/dxホドスコープはF1回路と共に京産大に送り返され、年度末にはフル装備のDAQが構築でき2014年度の性能評価測定に備えた。dE/dx用に制作しているF1回路はマニュアルでのファインチューニングを残すのみである。π+π-原子の準安定P状態の存在観測のために挿入した永久磁石が粒子放射線のため減磁する問題は、Nd系の磁石で大きくSm-Co系では小さいことが判った。Sm-Co系の各種磁石素材の中から最も耐性の大きな磁石を選別するために、京大原子炉で中性子照射実験をしたが、原子炉の照射コースの新設と駆動装置の修理のため年度末の1回の照射に終わった。しかし、照射中にリアルタイムで磁場強度を測定する装置の動作確認ができ次年度の照射見込みを得た。また強磁場発生装置の設計は、口径60mmで1Tmまでを得た。論文作製に付いては、2012年までのデータからπK原子の生成観測と初の寿命とπK散乱長測定の結果をまとめ、CERNのPreprintsにCERN-PH-EP-2014-030, arXiv:1403.0845で発表した。現在Phy.Lett.Bに投稿準備中である。スペクトロメータの論文は第2ドラフトまで進行しており、2014年度中にNIMに投稿予定である。
2: おおむね順調に進展している
2013年度の作業予定であったCERN-PSのT8実験コースから検出器、スペクトロメータの撤去は完了した。第二の新dE/dxホドスコープに関してはT8での性能と宇宙線を使った性能結果をまとめ京産大先端科学技術研究所の所報に掲載した。時間分解能は270psでパイ粒子の検出効率は99%で非常によい性能であった。また光電子増倍管光電面での光量は26~30光子と予想よりよい値を得た。第三にラムシフト測定用に使用する永久磁石の粒子放射線による減磁効果の測定は、京大原子炉の照射コース新設と駆動装置設置のため年度末に一度しか使用できなかった。しかし、磁場の強さを照射中にリアルタイムで測定する装置が少しの改良で使えそうなので減磁測定の見通しが立った。第四の論文については、スペクトロメータは第2ドラフトまでできており、πK原子の寿命と散乱長の初めての実験結果はCERNのpreprintとしてまとめられた。
陽子エネルギー450GeV/cのCERN-SPS実験施設に移設する準備を始める。同時にスペクトロメータの改良,主に新dE/dxホドスコープの4層全面での性能評価を行う。F1回路のチューニングを終える。スペクトロメータの論文のNIMへの投稿とpreprintを作ったπK原子の寿命と散乱長測定のPhys.Letterへの投稿、その他DIRAC実験で使用した標的と24GeV陽子の核反応に関する論文などの投稿準備をする。CERN-SPSでの450GeV陽子によるππ原子のラムシフト測定を実現すべくLetter of Intentを2014年度中に作成する予定である。
支出のその他の項目であるCommon Fund(DIRAC実験の実験遂行用)が約15万円減額されたため。9月のCERNへの出張が1週間短かったため。F1チューニング、論文打ち合わせとSPSへのLOI準備のためCERNでの出張作業が増えるので主に旅費に使用する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件)
CERN Document Server(cds.ch)
巻: CERN-PH-EP-2014-030 ページ: 1-12
京都産業大学先端科学技術研究所所報
巻: 第12号 ページ: 9-20
巻: 第12号 ページ: 1-8
AIP Conf. Proc.
巻: 1533 ページ: 115-120
10.1063/1.4806786