研究課題/領域番号 |
24340058
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
岡田 憲志 京都産業大学, 名誉教授 (90093385)
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研究分担者 |
岩下 芳久 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00144387)
千葉 雅美 首都大学東京, 理工学研究科, 客員研究員 (60128577)
外山 政文 京都産業大学, コンピュータ理工学部, 教授 (60180189)
神谷 好郎 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 助教 (90434323)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ππ散乱長 / ラムシフト / ππ原子 / カイラル摂動計算 / QCD / ππ原子寿命 / 準安定 P状態 / πK原子 |
研究実績の概要 |
ππ散乱長の低エネルギーでの実験的測定は、QCDの色閉じ込め領域での良い検証となる。π+π-原子(Aππ)の基底S状態の寿命測定は 散乱長差|a0-a2|(添字isospin)を与える。この値は我々の実験で4%の精度で求められた。今回の研究を含む最終目的であるAππの準安定P状態のラムシフトΔE∝(2a0+a2)測定からa0 とa2を分離して求めることができる。 1.新dE/dxホドスコープは、幅3mm長さ100mm厚さ1mmのプラスチックシンチレータ32本で1面を構成し、X-Y-X'-Y’の4面から成っている。スラブの両端読み出しでMIPSに対して30peを達成した。ファイバーホドスコープの弱点であった0.5mm以内の近接粒子を1粒子/2粒子弁別できる。 2.永久磁石の粒子線耐性を測定する予定であったが、京大原子炉が停止しているためできなかった。磁石成分の耐性データはCERNでの資料を参考にしSm-Co系磁石を選択し、3次元電磁場測定ソフトで磁場測定を行いデータベース化した。 3.論文作成(1)2012年に二重標的にして測定した準安定Aππの存在を実証した初めての実験結果を投稿した。Phys. Lett. B751(2015) First observation of long-lived π+π- atoms. (2)πK原子の寿命測定や準安定Aππのラムシフト測定用に改造されたDIRACスペクトロメータの論文を2015年1月にNIM Aに投稿し、現在査読者の意見に基づき修正作業中である。(3)πK原子の寿命測定実験から初めて有限寿命を測定した結果を論文にし、5月にPL Bに投稿予定である。 4.ラムシフト測定実験をCERN SPS加速器で行うために実験趣意書をCERN-SPSCに昨年10月に提出予定であったが国際共同実験グループ内の議論が終わらず今年の10月に提出する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年のCERN-PSにおけるDIRAC実験で得たデータから、この研究の第一目的であるππ原子の準安定P状態の存在を初めて観測することができた。24GeV陽子による100μmBe標的照射で約17000個のππ原子が生成された。原子が標的中を進む間に約7%が長寿命準安定ππ原子に励起された。そしてその原子は、100mm下流に設置した2.1μm厚のPt標的でπ+π-対に解離されてDIRACスペクトロメータで検出された。短寿命の原子はこの2つの標的間空間でπ0π0に崩壊し、またBe中で解離したπ+π-対はこの空間に設置された磁石で排除され純粋に長寿命原子からの解離対だけを選別できた。解析の結果436+-71個の長寿命準安定ππ原子を観測した。 これで長寿命準安定ππ原子のラムシフトを測定できる見通しが立ったことで、CERNの450GeV陽子SPS加速器で実施するためのLetter of Intentを作成中である。 ラムシフトはシュタルク効果を使い測定するが、そこで使用される高磁場発生永久磁石の放射線減磁効果を中性子を使用して測定予定であったが、京大原子炉の停止のため行うことができなかった。共同実験国であるロシアかフランスで実施することを考えている。 改造されたDIRACスペクトロメータはPSの実験室から回収し、適宜メンテナンスを行い新たなビームコースへの移設を待つ状態にある。
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今後の研究の推進方策 |
ππ原子の準安定P状態のラムシフトを精度よく測定するためには、今まで実験を行ってきたCERN-PS加速器では生成断面積が小さく統計を上げるには時間がかかる。ぜひともCERNの450GeV陽子SPSで実験を行う必要がある。2016年10月にCERNのSPSC(研究採択委員会)に実験趣意書を提出して研究の推進を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
京大原子炉の停止により永久磁石の粒子線耐性を測定できなかった。実験打ち合わせと国内旅費の未使用による。 CERNのSPSC(実験プログラム採択委員会)に提出するLoI(実験趣意書)が2016年度に伸びたため国内での検討打ち合わせ回数を減らしたことによる旅費の未使用による。
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次年度使用額の使用計画 |
粒子線耐性はDIRAC実験の共同研究者であるロシアグループにロシアでの中性子照射を任すことにする。 2016年の10月にCERN-SPSCにLoIを提出するために、DIRAC-Japanグループでのミーティングを国内で開き実験計画の詳細を検討する。πK原子の観測の論文を完成させるためのミーティングを開く。これらミーティングの旅費に使用する。
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