研究課題/領域番号 |
24340071
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松井 広志 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30275292)
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研究分担者 |
田所 誠 東京理科大学, 理学部, 教授 (60249951)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プロトン伝導 / 水分子 / ナノ多孔質 / インピーダンス / 誘電率 / 伝導率 / プローバー / 水和 |
研究概要 |
・本研究計画で試作したプロ―バーシステムにより、微小試料中に内包された1次元水分子ネットワークの誘電率・伝導率の周波数依存性を導出する研究手法を確立した。特に、探針に塗った伝導性グリースと水分子ネットワークとの間に生じる接触抵抗の寄与をランドルス回路を等価回路に採用することで、試料の低周波インピーダンスを得ることができた。実用的に計測できる領域は、LCRメータでは500Hz~2MHz、インピーダンスアナライザでは1~20MHzである。後者の場合、配線の長さが計測に影響すること、および周波数増加により、試料の抵抗が低下するため、接触抵抗と同程度以下では測定が困難になった。 ・大型単結晶試料が得られている分子性ナノ多孔質結晶{[Ni(cyclam(H2O)2]3(TMA)2・29H2O}nにおいて、低周波インピーダンスの周波数変化を測定した。その結果、1MHz以下では誘電率が約50だが、それ以上では分散が生じる。デバイ型分散を仮定したところ、緩和時間がナノ秒オーダーにあることが分かり、自由水(~10ピコ秒)に比べて約2桁遅くなった。この応答は、第4水和圏に含まれる水分子双極子の集団励起に起因することが分かった。 ・上記分子性ナノ多孔質結晶の水分子ネットワークの中心に、エリスリトール(糖アルコール)を1次元的に規則配列させた試料の合成に成功した。誘電率測定を同様にして行ったところ、誘電率が約400に達し、かつ、10kHzと数十MHz付近に分散があることが分かった。異常に大きい誘電率の起源は今のところ不明だが、エリスリトールが有する4個のOH基に水和した水分子が自己解離することで、プロトンとプロトンホールが出現し、これら電荷が作る電気双極子の応答と考えられる。エリスリトール導入量を低下させ、誘電率がどのように変化するか調べて機構を今後解明したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
・微小な単結晶試料1個を用いて、異方的な水分子ネットワークの低周波誘電率測定に初めて成功した。探針の形状決定、および伝導性グリースと、校正用50Ωの選択には、予想以上に時間を要したが、院生とともに技術革新することができた。 ・水分子ネットワークのみを有するNi(cyclam)試料の場合、低周波の誘電応答には、水分子双極子の応答を捉えることができた。ナノ空間に閉ざされた水分子の集団応答を初めて明確に検出することができた。 ・一方、ナノチャンネル水分子ネットワーク中にエリスリトールを導入した試料では、誘電率が1桁増加し、予想外の結果となった。これほどの増大は、水分子の誘電率には帰着できない。エリスリトール自身は中性分子であるので、直接誘電応答しないはずである。しかし、エリスリトールに水和する水分子のごく一部が自己解離し、プロトンとプロトンホールが発生した可能性が考えられる。エリスリトール導入により、赤外スペクトルには、新たな鋭い吸収が1000cm-1付近に出現することも確認している。これは、新たな形態のプロトン水和物が出現している証拠といえる。こうした研究成果は、水分子を含むナノ空間の新たな活用法を切り開くものである。
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今後の研究の推進方策 |
・プロ―バーシステムによるインピーダンス測定では、ナノチャンネル中に内包された水分子ネットワークの誘電分散の測定可能域を、より高周波まで拡張させたい。そのために、探針と計測機器を結ぶ同軸ケーブルの距離を可能な限り短くする。100 MHz程度まで計測できるようになれば、ナノ空間に束縛された水分子ネットワークの集団応答が完全に決定できる。 ・これまで、インピーダンス測定は室温付近を中心に行ってきた。より低温にしたときどのような温度変化をするか調べることは、ダイナミックスを知る上で大変興味深い。液体窒素、或いは液体ヘリウムフロー型のクライオスタットを設計して試作する。そして、プローバーを用いた冷却実験を行い、誘電分散の温度変化を調べる。 ・Ni(cyclam)試料のナノチャンネル中に、エリスリトールを約60%導入した試料をこれまで測定してきた。エリスリトールの導入量を制御した試料を作製して、誘電率がどのように変化するか調べる。導入量依存性から、誘電率の異常増大の起源を考察する。また、インピーダンス測定に合わせて、赤外スペクトルを測定し、プロトン水和物の形態に関する知見を得る。 ・水ナノチューブ、或いは水分子チェーンを内包した分子性ナノ多孔質結晶について、インピーダンス測定を行い、こうした水分子ネットワークの誘電応答の相違、およびプロトン移動に関する知見を得る。水分子双極子に働く、界面相互作用がナノチャンネルのサイズ、形状にどのように依存するか明らかにする。 ・ナノ空間のさらなる活用法と、生体分子のプロトン移動に焦点を当てた次期計画を立案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究経費を無駄なく計画的に使用したこと、および、節約に励んだことにより、繰越金が生じた。 この2年間の研究期間に成果が数多く出ており、国際学会や国内の研究会に出席して発表するとともに、実際に研究に携わっている学生も積極的に学会発表を行わせるための経費に充てる。
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