スピンと電気分極の結合を通じて磁性体の基本的素励起であるスピン波を光の振動電場により励起するエレクトロマグノンは、電子スピンの集団運動をテラヘルツ領域の光電場で駆動する顕著な動的交差応答現象である。本研究では複数のスピンが特有の配置をするときに現れる「複合スピン秩序パラメータ」のダイナミックスによって、エレクトロマグノンが励起されることを新たに提案し、これを実験的に見いだして精査することを目的としている。26年度は、クロムスピネル酸化物の磁場誘起フェリ磁性状態におけるトロイダルモーメント由来のエレクトロマグノンに関し理論的な考察を進めた。パイロクロア格子上で16副格子の複雑な磁気構造をとる当該物質のマグノン励起に伴うスピンの歳差運動パターンをスピン波計算より導出し、トロイダルモーメントの運動を求めたところ、予想に反しフェリ状態が持つP4132対称性によりトロイダルモーメントが消失することが明らかになった。本課題からベクトルスピンカイラリティーが磁気励起に関係した電気磁気相関現象を引き起こす重要な機能を持つことを理解するに至ったが、これに基づいて量子スピンギャップ系における電気磁気効果の発現を期待し実験を行った。その結果、孤立ダイマー系における磁気励起「トリプロン」の光吸収信号の円二色性を示さない特異な選択則と、結合ダイマー系TlCuCl3においてトリプロンのBose・Einstein凝縮による磁場誘起磁気秩序に伴う強誘電が発生することを明らかにした。
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