研究課題
本研究では、純良微小単結晶を用いた極低温磁化測定により各種量子磁性体や強相関系の新奇現象を見出し解明することを目的としている。本年度はまず、S=1/2一次元量子スピン反強磁性体CuPzNの飽和磁場Hc~14T近傍の量子臨界性について、磁化の温度変化を詳細に調べた。CuPzNの磁化率の温度依存性には、一次元性を反映して約7Kでブロードなピークが現れる。磁場増加とともにこのピークは低温側にシフトするが、そのピーク温度の磁場変化はHc付近ではHc-Hに比例して減少することがわかった。またちょうどHcにおける磁化はT=0に向かって-√Tの温度依存性を示す結果が得られた。これらの実験結果はマグノン励起のフェルミオン近似による理論的予測に定量的に合うことを確認した。直交ダイマー化合物Yb2Pt2Pbの磁化困難軸方向における反強磁性転移温度の磁場変化を15Tまで測定し、この方向には転移温度が殆ど磁場変化しないことを確認した。これはこの系の強いイジング異方性を示す結果であり、我々が以前に提案したモデルを支持する結果である。トリプレット超伝導の有力候補と考えられているSr2RuO4の高純度微小単結晶試料(0.7mg)について、超伝導状態におけるab面内方向の磁化測定を行った。その結果、約700mK以下において、超伝導上部臨界磁場Hc2における超伝導-ノーマル転移が磁化の不連続な飛びを伴う一次転移になることがわかった。この結果は、最近の磁気熱量効果の実験結果を検証する。Hc2において観測された磁化の飛びの大きさは、ノーマル状態の磁化の20%程度におよぶこともわかった。このようなHc2における一次転移はこれまでこの物質の超伝導対称性について提案されていたカイラルp波超伝導では容易に説明がつかず、Sr2RuO4の超伝導研究に新たな展開をもたらすものと期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予定していなかったSr2RuO4の微小単結晶試料の磁化測定を行い、Hc2における転移が磁化の飛びを伴う一次転移であることを確認できた。この物質はトリプレット超伝導体であると期待され、国内外で盛んに研究が行われている。最近、1mg以下の高純度単結晶試料でHc2における転移が低温で一次になることが比熱測定から報告され、その原因が注目された。このような微小単結晶の磁化測定は以前には困難であったが、本研究課題により実現可能となり、研究業績の概要で述べたように、学術的に極めて重要な結果が得られた。
研究は順調に進んでいるため、とくに大きな計画の変更はない。技術的な改良点として、装置の常磁性不純物による磁化バックグラウンドをより軽減すること、および試料の一軸回転機構を導入して磁場方向に敏感な物質に対応できるようにしていく。
当初予定していたよりも測定が短時間で済み、ヘリウムの使用料が予定額を下回ったためさらに測定を行うためにヘリウム代の一部として充てる
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