研究課題/領域番号 |
24340081
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
紺谷 浩 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90272533)
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研究分担者 |
松田 祐司 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50199816)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 鉄系超伝導体 / 銅酸化物高温超伝導体 / バーテックス補正 / 軌道揺らぎ |
研究実績の概要 |
鉄系超伝導体および銅酸化物高温超伝導体における、軌道(電荷)秩序の発現機構や超伝導発現機構の研究を行った。 鉄系超伝導体LaFeAsO+HではHドープにより過剰電子ドープが可能であり、超伝導転移温度(Tc)がdouble dome形状を占めすことと、低過剰ドープ領域においてC4対称性を破らないメタ構造相転移を示すことが明らかにされた。そこで我々は、自己無撞着バーテックス補正理論(SC-VC理論)に基づき、その微視的理論の構築に取り組んだ。まず我々はLaFeAsO+Hの第一原理模型を各Hドープ量ごとに構築し、rigid band近似を超えた微視的模型を構築した。次にその模型をSC-VC理論により解析して、①母物質における2回対称軌道秩序、および過剰ドープ領域における4回対称軌道秩序を得た。これらの軌道秩序により、斜方晶構造相転移およびメタ構造相転移の微視的模型に基づく理解が可能になった。さらに②軌道揺らぎを媒介とする、超伝導ギャップの符号反転を持たないS++波超伝導状態や、ホール面同士で符号反転を示すhole-S++波状態が出現することを明らかにした。 銅酸化物高温超伝導体では、擬ギャップが観測される低ドープ領域において、電荷秩序が生じることが共鳴X線散乱実験により明らかにされた。ただしその理論的再現は難しかった。我々はSC-VC理論に基づき銅酸化物超伝導体の有効模型である3軌道ハバード模型を解析し、その解明に取り組んだ。その結果、電荷感受率に対するAlsamazov-Larkin型バーテックス補正により、実験で観測される電荷秩序が得られることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
自己無撞着バーテックス補正理論(SC-VC理論)の開発及び拡張に成功し、鉄系超伝導体における軌道秩序の発現機構や、銅酸化物高温超伝導体における電荷秩序の発現機構を理解することが出来た。更に、2次元汎関数繰り込み群(RG)法を改良したRG+cRPA法を開発して、SC-VC理論と同様の結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
我々は今後の研究で、鉄系超伝導体の軌道秩序や超伝導発現機構の理論の更なる発展を目指す。その目的のために、我々はFeSeの電子状態の研究に取り組む。FeSeでは90Kで軌道秩序を示すが、絶対零度まで磁性秩序を示さないため、その理論的解明が待たれている。我々はFeSeの微視的模型をSC-VC理論に基づき解析し、その理論的説明に取り組んでいる。SC-VC理論で取り込まれるAslamazov-Larkin型バーテックス補正により、FeSeの磁性を伴わない軌道秩序の理論的説明が可能になると期待される。 また我々は、銅酸化物高温超伝導体における電荷秩序の発現機構の研究を、SC-VC理論およびRG+cRPA理論によって解析する。RG+cRPA法においては、バーテックス補正のバイアスの無い系統的計算が可能になるというメリットがある。我々は両方の理論を併用して本問題に取り組み、電荷秩序の発現機構解明および、銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップ現象の本質的理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に、松田先生(分担者)による新規鉄系超伝導体FeSeの低温輸送現象の実験結果に基づき、FeSeの低温多体電子状態の理論計算を行う計画を立てていた。しかし実験解析の終了が平成27年度初旬にずれ込むことが判明したため、計画を変更して別の鉄系超伝導体であるLiFeAsの超伝導ギャップ方程式の解析を行うことにした。そのため、未使用分が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
このため、実験解析の終了を待ち、平成27年度前半からFeSeの低温多体電子状態の理論計算を開始する。未使用額はその経費に充てることとしたい。
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