研究課題/領域番号 |
24340083
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田島 節子 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70188241)
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研究分担者 |
宮坂 茂樹 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70345106)
増井 孝彦 近畿大学, 理工学部, 准教授 (10403099)
田中 清尚 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 招へい研究員 (60511003)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 銅酸化物 / 高温超伝導 / 擬ギャップ / 同位体置換効果 / ラマン散乱分光 / 角度分解光電子分光 |
研究概要 |
銅酸化物高温超伝導体の積年の謎である擬ギャップの正体を突き止めるための意義ある成果がいくつか得られた。まず、YBa2Cu3Oy単結晶を用いて、酸素同位体置換効果のキャリアドープ量依存性を詳細に調べた結果、以下のことがわかった。最適キャリアドープでは同位体効果係数がほぼゼロであるが、ドープ量が減少するにつれてほぼ線形に増加することがわかった。これは、超伝導転移温度の低下と共に競合秩序が成長し、それに同位体置換効果が現れたと考えられる。このことから、キャリアドープ量減少と共に超伝導転移温度が低下するのは、何等かの競合秩序によって超伝導転移温度が抑制されているためである可能性が高い。競合秩序の候補として最も可能性が高いのが擬ギャップであるが、擬ギャップ現象が単なるスピンに関連した秩序ではなく、同位体効果を示すような電荷が関与したものであるという知見は、非常に大きな成果である。 第2の成果は、擬ギャップと超伝導ギャップの関係を調べるため、同一試料で測定したラマン散乱スペクトルと角度分解光電子スペクトル(ARPES)を比較検討した結果、超伝導ギャップの組成依存性をほぼ明らかにしたことである。ARPESの実験データからラマン散乱スペクトルを計算するという試みは初めてであり、今回その計算モデルを確立したこと自体、大きな成果である。さらに、そのモデルを使った計算で、超伝導ギャップエネルギーがラマン散乱の偏光方向により異なるドープ量依存性を示すことの原因を解明しつつある。ギャップ最大値を示す運動量空間付近では、超伝導ギャップが著しく擬ギャップの影響を受けて増大しており、その影響は角度分解光電子分光のほうがラマン散乱より大きく受けていることがわかった。このように擬ギャップの影響を超伝導ギャップが受けるという現象は、二つのギャップが実空間上で共存していることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
擬ギャップの起源については、超伝導前駆現象ではなく、むしろ超伝導と競合する現象であるということが結論できた。どのような競合秩序であるかは確定できていないが、同位体置換効果が現れるような電荷秩序である可能性が高いことを明らかにした。 加えて、超伝導前駆現象を光学スペクトルで観測できたこと、またその前駆現象温度がキャリアドープ減少と共に上昇することを見出したことは、モット絶縁体をもたらす強い電子相関が超伝導対形成機構に深く関与していることを示唆するものである。この結果は、超伝導機構解明に大きく近づいた成果と言える。 更に、角度分解光電子スペクトルとラマン散乱スペクトルの比較も順調に進んでおり、組成依存性などさらにデータを積み重ねることで、超伝導ギャップと擬ギャップの共存状態を明らかにできる目途が立ちつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに見出した超伝導前駆現象が、銅酸化物高温超伝導体の普遍的現象であるかどうかを確認するための実験を行う。具体的には、YBa2Cu3Oyの面内偏光スペクトルで前駆現象を観測すること、それが成功した場合には、他の高温超伝導体についても確認する。 擬ギャップと超伝導ギャップの相互干渉について明らかにすべく、ラマン散乱や角度分解光電子分光の解析を引き続き行う。具体的には、Bi2Sr2CaCu2OZの詳細な組成依存性のデータを収集し、両者のスペクトル解析を行う。また、フェルミ面形状が少し異なるBi2Sr2CuOzについても同様の実験を行い、普遍性を確認する。
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