研究課題
フタロシアニン分子性伝導体では巨大磁気抵抗効果が観測される。この機構を解明する上で、電子相関により引き起こされる電荷秩序を明らかにする事は重要である。昨年度までの研究で、波数1530cm-1付近の分子内モードが分子電荷の差異に対して変化する事を見出していた。そこで、このモードの温度変化を精査した。その結果、50K以下でわずかではあるが、このモードが非対称になる事を見出した。これは電荷秩序により分子電荷が弱く不均一的になっている事を示唆していると思われる。次に、巨大磁気抵抗効果の効率を向上させる事を目指した。磁場で局在スピンの反強磁性状態を崩す事で巨大磁気抵抗効果を生じさせている。そこで、局在スピンの反強磁性状態を少し弱める事を目的として、局在スピンの濃度を減らす事を試みた。具体的には、局在スピンはフタロシアニン分子の中心にある鉄原子が主に担っているので、鉄以外の他の遷移金属原子に置換する事を行った(コバルト原子の場合は局在スピンをもたない)。実験の結果、興味深い事がいくつか分かった。1つ目は、希薄する事で巨大磁気抵抗効果の効率を向上できた事である。具体的には、9テスラで電気抵抗が3桁近く減少するようになった。2つ目は、より低温にすると正の磁気抵抗が明確に観測されるようになった事である。低温になるほど反強磁性を磁場で崩しにくくなるので、磁場によって電荷秩序を安定化させる効果が優位になった結果であると考えられる。3つ目は、局在スピンが7%程度の希薄濃度までの広い濃度領域で、巨大磁気抵抗が観測された事である。従来の考え方では、局在スピン濃度が50%を切れば、反強磁性秩序が電荷秩序に影響する効果がなくなるはずであり、新しい電子状態が生じていると考えられる。この局在スピン濃度の巨大磁気抵抗効果への影響と、分子内相互作用に関して得た知見は、27年度中にそれぞれ論文として発表した。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件) 備考 (1件)
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http://www-gmr.phys.sci.osaka-u.ac.jp/jisseki_h.html