研究課題
鉄系超伝導体における超伝導ギャップ構造の普遍性と物質依存性に関して情報を得るため、FeSeの電子状態をSTM/STSで調べた。FeSeは最も簡単な結晶構造を持つ鉄系超伝導体であるが、非磁性の斜方晶相で超伝導が発現する他、超伝導ギャップにノードを持つなど、ユニークな特徴を有している。FeSeは、試料作製が困難であり、これまで高品質な試料はMBEで作製した薄膜の形でしか得られていなかった。今回、京大、カールスルーエ工科大グループから高純度単結晶試料の提供を受けることができたので、基板からの歪の影響等を完全に排除した実験が可能になった。分光イメージング測定を行ったところ、明瞭な準粒子干渉効果の観測に成功した。分光イメージをFourier解析した結果、干渉パターンは、一次元的な分散を示す電子バンドと、複数の正孔バンドに起因することが分かった。興味深いことに、電子バンドと正孔バンドの分散方向は直交している。このような電子状態の強い面内異方性は、斜方晶歪だけで説明することは困難であり、この系で軌道秩序が重要な役割を果たしていることが示唆される。得られたバンド分散から見積もられるFermiエネルギーはいずれのバンドでも高々10 meV程度しかなく、超伝導ギャップの大きさと同じオーダーである。このような状況は通常の弱結合超伝導体とは大きくかけ離れており、これまでにない超伝導状態が実現されている可能性が示唆される。現在、電子輸送特性の測定結果との比較を行い、どのような超伝導状態が実現されているのか検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
FeSeが極めてユニークな超伝導体であることが判明し、さまざまな新しい情報が得られつつある。
当面FeSeの研究に注力するが、ペロブスカイト型ブロック層を有する超伝導体Sr2VFeAsO3の単結晶試料を入手する目途が立ったので、本物質の研究も行いたい。
新しく導入したマグネットのクライオスタットの蒸発量が少なく、液体ヘリウムの使用量が少なくて済んだ。国際会議に出張するため、その旅費等に充てる予定である。
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Scientific Reports
巻: 4 ページ: 4109
10.1038/srep04109