研究課題
化学気相輸送法で作製された高純度FeSe単結晶の電子状態と超伝導をSTM/STSで調べた。FeSeは最も簡単な結晶構造を持つ鉄系超伝導体であるが、軌道秩序を反映した正方晶直方晶転移を示すとともに、それに伴う電子状態の大きな面内異方性を持つ。また、Fermiエネルギーが高々10 meVと極めて小さく超伝導ギャップエネルギーと同程度であり、いわゆるBCS-BECクロスオーバー領域にある。このような異常な超伝導体は他に例が無く、非常に興味深い研究対象である。本年度は、FeSeの直方晶相における双晶界面が超伝導に与える影響と、超伝導ギャップの空間構造について研究を行った。FeSeは超伝導ギャップに節を持ち、双晶界面を挟んだ2つのドメイン間でギャップの相対的な位相が反転する。この符号反転は双晶界面においてエネルギーゼロの準粒子束縛状態をもたらすはずである。しかし、双晶近傍でSTSを行ったところ、束縛状態はゼロではなく、有限のエネルギーに現れることがわかった。この結果は、超伝導ギャップが実数である限りは説明できず、双晶が虚数成分を誘起していること、すなわち時間反転対称性を破ることを強く示唆する。双晶近傍の超伝導物性の実験研究はほとんど例が無く、今後の展開が期待できる。超伝導ギャップの空間構造に関してはトンネルスペクトルに現れるギャップの大きさを空間的にマッピングしたところ、周期的な変調構造を見出した。この超伝導ギャップの空間変調は、昨年度見出した準粒子干渉と強い相関があり、Fermiエネルギーにおける状態密度が小さい場所でギャップが大きい。この超伝導ギャップのFriedel振動は、Fermi波数がコヒーレンス長と同程度というBCS-BECクロスオーバー領域の特徴を反映したものと考えられる。渦糸芯状態でもFriedel振動が観測されている。今後の解析によってBCS-BECクロスオーバー領域を理解する上で有用なデータを提供できるものと期待している。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 111 ページ: 16309-16313
10.1073/pnas.1413477111
固体物理
巻: 49 ページ: 17-26