本基盤研究では、ソフトマターに内在するナノ界面の動的状態を局所的に制御し、このナノ界面を分子バルブとして界面間の物質輸送を制御することを目的とした。また、分子マニピュレータの原理を用いて、物質中のナノ界面の分布・構造を人工的に制御し、ミクロな物質輸送を駆動する原理を提唱した。本研究構想で扱うナノ界面は、局所的な相転移により大きな状態変化を起こし、輸送係数の絶対値と異方性に巨大な変化を生み出す。さらには、100nm~100mmの領域での球形ナノ界面分子バルブのメカニズムの解明により、ナノ物質科学に多彩な発展が期待できる。また、ソフトマター物質に内在する多様なナノ相分離界面を利用して、ナノ界面の動的制御原理を拡張し、ぬれ界面やスメクティック層間界面をモデルとして、分子配向運動制御を研究してきた。 最終年度である本年度は、昨年度に引き続きナノ界面分子バルブによる物質輸送制御(DDS(ドラッグデリバリーシステム)液晶ナノミセル)について、機能のモデル化を試行した。別々に作成したネマティックとスメクティックの2種類の液晶ナノミセルを、時刻0で混合し、ネマティックナノミセルから、スメクティックナノミセルへ、液晶分子自体が混合されることにより、スメクティックナノミセルの層状構造が時間変化する様子を観察することに成功した。この観測結果から、スメクティック層状構造の存在により、ミセル内の液晶分子の拡散が強く減速され、ネマティック相との相転移温度に近づくにつ入れて、拡散が加速することを見出した。この成果は、スメクティック液晶の層状構造と、そのネマティック相転移を用いることで、薬物分子の保持・放出をきわめて効率よく制御できることが証明された。
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