研究実績の概要 |
(I)電気粘性流体は一般に、電場の効果と流動場の効果の相対的な強さに応じて異なった振る舞いを示す。今年度は、流動場の効果が支配的な状況を対象にして理論的考察を進めた。電場は、系に特徴的な長さと異方性を持ち込み、それが界面張力による緩和ダイナミクスに影響を及ぼす。また、粘性応力、界面応力に加えて、マクスウェル応力の寄与が現れる。流動場下での非相溶ブレンドのダイナミクスを記述するDoi-Ohtaの理論(J. Chem. Phys. 1991)を土台にして、上述の電場の効果を摂動としてとりいれることにより、非相溶性ブレンドの電気粘性効果を記述する構成方程式を導出した。マクスウェル応力については、前年度までに導出した公式(T. Sakaue, T. Ohta, Phys. Rev. Lett. 108, 078301, 2012)を用いて、系の統計的なドメイン構造と関連づけた議論をした。
また、導出した構成方程式を用いて、交流電場に対するせん断応力の動的応答を計算し、実験的報告(Y.Na et. al, Phys. Rev. E, 2009)と良い一致を得た。特に、応答関数の実部が「負の窪み」を持つという特徴を半定量的に再現し、その物理的起源について、多自由度系での応答における時間遅れという観点から議論をした。
(II) 相分離(誘電)流体に強い電場をかけると、相分離ドメインが電場方向に引き伸ばされ、極板間をブリッジするコラム状の特徴的な構造を形成する。このような状況下での弾性的性質を理解していくための最初の取り掛かりとして、系のせん断剛性率を計算している。論文(T. Sakaue, T. Ohta, Phys. Rev. Lett., 2012)で導出した公式を用いた計算と、電磁気学で行う誘電体を挟んだコンデンサーの静電エネルギーを求める手法を一般化した計算と二通りでの解析を行い、せん断応力が電場強度、ドメイン構造、組成などにどのように依存するかを考察している。
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