本研究課題では、二相に分離した誘電流体における電気粘性効果の包括的理解を目指して理論的研究を行ってきた。電気粘性流体の振舞いは、外部から印加する電場と流動場の相対的強さに応じて異なる。 研究期間前半には、主に流動場の効果が支配的な状況をとりあげ、電場の弱い摂動として取り扱うことにより構成方程式を構築し、ダイナミクスとレオロジーの解析を行った。一方、研究期間の中盤以降では、粘度が大きく上昇する強電場下での振る舞いの考察に取り組んだ。この領域は応用上重要で、粘度上昇のメカニズムを相分離流体のメソスケールでのドメイン構造と関連付けることにより、電気粘性効果発現の物理的メカニズムを明確にした。 (期間延長により)最終年度となる今年度は、流動場の効果と電場の効果が拮抗する物理的には最も興味深い領域を対象に、主として数値シミュレーションによる研究を行った。強電場下で極板間をブリッジするコラム状の相分離構造が出来ているところにせん断をかけていくと、せん断率が小さなときには、コラム構造の傾いた定常状態が実現し、この状態での実効粘度は電場強度の二乗に比例して大きくなる。この傾いたコラム構造は、せん断による構造変化と、それにより引き起こされる化学ポテンシャル勾配により駆動される相分離ダイナミクスとがバランスすることにより維持される動的な定常状態である。一方、せん断率が高くなるとコラム状の構造が破壊され、シアバンド形成を伴う非線形レオロジーが観測された。このコラム状構造の破壊はせん断率がある臨界値を越えたところで起こり、そこには非自明は電場強度、界面張力依存性が見られた。また、空間次元の効果についても調査を行い、三次元では電場、流動場の両方の効果を「受け流す」ドメイン構造の実現が可能であることを示した。この場合電気粘性効果は発現しないが、外場によるドメイン構造制御法として興味深い。
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