研究課題/領域番号 |
24340101
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
市原 美恵 東京大学, 地震研究所, 准教授 (00376625)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 火山現象 / 地震現象 / 噴火 / 空振 |
研究概要 |
平成24年度の結果から,2回目の準プリニー式噴火の成長要因が,噴出するマグマに内在することが推測された.平成25年度は,その過程をさらに詳しく調べ,一つの仮説を立てるに至った.地震ー空振の解析結果では,1回目の準プリニー式噴火が終了してから2回目が十分に成長するまでの間に,空振の寄与を有意に超える連続振動が発生していること,地震,空振のエネルギーはともに,マグマだまりの体積収縮率や噴煙高度から推定される噴出率ともほぼ比例関係にあることが分かった.爆発的連続噴火に伴う空振と地震の発生機構としてこれまでに提案されているメカニズムは,この比例関係を説明できず,破砕面の変動が波動発生源であるという新しい描像を表現する理論式を構築した.そして,2回目の準プリニー式噴火の成長期において,火道流システムが変化しないまま,二桁に渡って噴出量が増加したことが分かった.物質科学解析の結果では,1回目と2回目の噴出物の境界は確定できないものの,両噴火の噴出物の一番最後の部分に密度の低いマグマが多く含まれ,その直前に密度の高いマグマの層が存在することを見出した.以上の解析結果と,加速膨張するマグマの理論を合わせ,2回目の準プリニー式噴火の成長過程として以下のモデルを提案した.1回目の準プリニー式噴火が終了後,火口からは弱い噴火が継続していたが,火道の中は脱ガスしたマグマが次第に蓄積して行った.2回目の噴火の成長原因は,マグマだまりから発泡度の高いマグマが流出し始めたことによる.このマグマによって、火道にたまっていた脱ガスしたマグマが次第に噴出率を上げながら押し出されて行った.やがて,発泡度の高いマグマが火口に達したときにチョーキングが発生し,火口での過剰圧が生じたために火口の拡大が発生した.今後は,この仮説に基づいて,波動形成実験を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新燃岳2011年噴火における爆発的連続噴火に伴う波動場を解析する手法として,地震-空振統合解析の新しい手法を考案した.この手法により,これまで区別できていなかった噴火に伴う地震動と,空振が地面をたたくことによる地震動を定量的に区別することができるようになった.そして,地震と空振のエネルギー分配の変化に注目することにより,波動放出機構や火道流システムの変化を検知できる可能性を示した.また,顕著な爆発現象なく成長した2回目の準プリニー式噴火では,地震・空振のそれぞれのエネルギーが噴出率に比例して二桁に渡って増加していることを見出した.以上のように,波動場の解析については,十分に目的が達成されている,物質科学分析は,予定していた密度測定が終了した. 2回目の準プリニー式噴火の成長過程における噴出物の物質科学的特徴の変化として.噴出ポテンシャルの上昇を示唆する発泡度の高いものがあることを期待していたが,反対に,脱ガスした密度の高いマグマ片を多く含むことが分かった.発泡度の高いマグマは,その後,準プリニー式噴火の後期に噴出している.注目している層が本当にその成長期に当たるものかどうかさらに検討を進める必要がある.室内実験による波動場の模擬実験は十分に進められなかった.本研究のため2年間の予定で雇用していた物質科学科解析を担当する研究者支援者が,常勤の研究職に就職が決まったため,平成25年度一杯で退職することになった.そのため,平成25年度中は,新燃岳2011年噴火の統合解析に注力することにした.波動放出機構の描像が明確になったため,より適切な模擬実験を行うことができると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最初に立てた仮説は,爆発的連続噴火における波動形成過程は,火道内の連鎖的小爆発である,というものであった.これまでに得られた,新燃岳2011年噴火の準プリニー式噴火における地震・空振のエネルギーと,噴出率との関係はこの仮説が有力であることを示唆するものであるが,定量的な検証はなされていない.この問題を完全に解決することは,本研究の範囲を超えるが,単発的な爆発による地震―空振のエネルギー分配と,連鎖的小爆発のエネルギー分配をつなげることを目標として室内実験を行う.これまで行ってきた,粘弾性流体中に気体を送り込むときに発生する音を計測する実験装置に,さらに流体中圧力センサーを追加する.実験結果、波動解析の結果、物質科学解析の結果をまとめ、爆発的連続噴火における波動形成メカニズムと、噴火の成長の要因について考察し論文にまとめる.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究申請時の予定では,平成24年4月より2年間,研究支援者を雇用する予定であった.しかし,候補研究者が別の職に就いていたため,雇用が3カ月遅れて開始した.そのため,初年度から3カ月分の雇用日が順次繰越となっていた.雇用していた研究者は,平成26年4月より他大学の正規教員として採用されたため,3カ月分の雇用費が残された. 雇用していた研究者は,連携研究者として引き続き研究に加わる.残りの雇用費は3カ月分なので,新たに研究員を雇うことはしない.連携研究者の研究に必要な薄片の作成や機械的な作業を外注し,研究の効率化を図る.また,本研究で遅れている室内実験を進めるために,大学院生に実験補助をさせる.大学院生が実験データの解析に用いるコンピューターやソフトウェアの購入費にも充てる.
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