研究課題/領域番号 |
24340110
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研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
中村 健治 獨協大学, 経済学部, 教授 (20262917)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 降水システム / 衛星観測 / 山岳地降雨 / 陸上降水 |
研究概要 |
熱帯降雨観測衛星搭載の降雨レーダデータを用いてインドシナ半島からチベット域にかけての夏期の降雨特性の気候値を得た。降雨量、日周変化、陸海、地面標高、対流性降雨と層状性降雨の比率等を基に降雨のクラス分けを地域毎に行った。これにより例えばチベット、パキスタン、またインドの西ガーツ山脈の内陸側は陸上/小降雨量/強い日周変化(午後の雨が多い)として特徴づけられた。水平のグリッドは0.1度でありこれにより陸上地形の細かい差異を含めて地域特性が現れた。海上と陸上での日周変化の差異は既によく知られているがそれを再度確認するとともに、日周変化と降雨量との相関、標高と降水量の相関、などを調べた。地面標高と降雨量では全体としては標高が高くなると降雨量がきれいに減少するが、標高が低いところではその相関は不明瞭となった。陸上での降雨の日周変化の強さは降雨量が少ないほど強いことが確認された。これは小さい降水システムは太陽日射による地面加熱の効果をより直接に受けているためと考えられた。同様の事は海上でも見られたが陸上ほどは顕著ではなかった。これはもともと海上の降雨の日周変化は弱いことも理由の一つとなる。降雨域の水平の大きさと降雨頂高度との関係も調べた。降雨域が小さい時は降雨頂高度は5km程度であるが、降雨域が5000平方kmを越えると7km程度まで大きくなるように、平均として降雨域が広くなると降雨頂高度は上がる。この傾向はクラス分けされた多くの地域で見られたが、陸上/少雨/弱い日周変化で特徴づけられる領域では明瞭ではなかった。これらの特徴の解釈は今後の課題である。 衛星データは降水推定アルゴリズムが改訂されており、最新のデータセットによる再解析を行うため、解析システムの再構築を行った。また2014年2月末に全球の降水観測を目標とした新たな衛星が打ちあがったので、そのデータの解析の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者が一人でありその代表者が大学を異動したため、新たな職場での各種作業、また新たな環境での解析システムの立ち上げに手間取った。目標とした各作業項目についての進捗を次に記す。 (a) 総観規模擾乱に伴う降水と局地降水との分離として大規模降水システムと小降水システムの差異が総観規模擾乱と局地降水との差異に現れるとしてサイズによる分類を行った。(b) 局地的降水の分布と日周変化の解析についてはサイズの小さいシステムでは大きな日周変化があることを期待して陸上の降雨のサイズ、降雨頂きと日周変化の関係を求めたが関係は不明瞭であった。(c) 地形との関係については、地面高度と降水量との関係を求めた。地面高度とともに降水量が減少する傾向は明瞭に現れた。しかし低い陸地では降水量との相関は弱かった。湿潤域では地形が低くともそれがトリガーとなって大きな降水量の変化のあることを予想したがそのようなことは見られなかった。(d)分類図の作成については今年度は降水について衛星データと客観解析データから局地、広域降水システムと地形との気候値的関係のプロトタイプの実態図の作成を目指したが、東南アジア域についての分類図の作成に留まった。(e)マイクロ波放射計の降水推定の誤差の気候値と降水システムの気候値との関係については降雨の鉛直分布との定性的関係は得られている。韓国の研究者の韓国周辺での結果との類似性の議論を行った。(f)分類法の洗練については 降雨量、サイズ、降雨頂高度、日周変化の強さによる分類を行った。(g) 同様の解析のアジアモンスーン以外の地域への拡大については既にアンデス域では行ったが、それ以上の領域には広がっていない。
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今後の研究の推進方策 |
研究は若干遅れており、目標を絞って急ぐ必要がある。衛星データによる降水形態の気候値の解析であり、手法は分かっているので大量のデータの自動処理を進める。 2014年2月末に降水観測を目標とした新たな衛星が打ち上げられた。本衛星は現在機器のチェック中であるが順調であり、この衛星のデータの解析も視野に入れる。 具体的に以下を行う。 (a)総観規模擾乱に伴う降水と局地降水との分離と降水システムとしての特徴の抽出については、大規模降水システムと小降水システムの差異が総観規模擾乱と局地降水との差異に現れるとしてサイズによる分類のまとめを行う。降雨量、サイズ、降雨頂、日周変化の強さ、対流性/層状性降雨の割合の指標による相互の関係を調べる。その中で地形、凸凹具合(レリーフ)との関係も調べる。(b)マイクロ波放射計の降水推定の誤差の気候値と降水システムの気候値との関係については、降雨レーダとマイクロ波放射計それぞれの降水強度推定の差異と分類図との関係を調べる。また(c)解析領域のアジアモンスーン以外の地域への拡大する。さらに静止気象衛星のデータも参照する。次を見据えて(d) 新しい降水観測衛星のデータを使い中高緯度での調査の準備を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者が一人でありその代表者が異動し、新たな環境での業務の準備、学内行事等への対応、などで研究の進捗が遅れたことが、繰り越しの最大の原因であり、研究の進展に伴い大きな困難が生じたわけではない。データサーバーの整備、データの入手など研究環境の構築はかなり進んだが、研究補助者の雇い入れによるデータセットの作成、データ解析などが遅れてしまった。解析の進展に伴い、静止気象衛星のデータ、過去の客観解析データなどの入手も行う予定であったが、解析が十分に進まず、新たなデータの入手までには至らなかった。また謝金による研究補助者の雇用も余裕が無くできなかった。 マイクロ波放射計データや静止気象衛星データなどを蓄えるためのデータサーバーを瀬引き続いて整備する。また全球の降水観測を目的とした新しい衛星が打ちあがりそのデータが入手できるようになったこと、またそのデータがこれまで主に使ってきた熱帯降雨観測衛星(TRMM)の倍以上のデータレートで入っていくることになっているので、データサーバーを2014年度予定の40TB増強をさらに増強する。またこれまで収集したデータセットのとりまとめを謝金により行う。さらに論文投稿を行う。
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