研究課題
平成26年度の第一の業績は,前年度に確立したJEM-GLIMS光学観測データにおけるスプライト判定方法を用いて,複数例のスプライト事例を同定したことである。これにより,スプライトが雷放電のピーク発光位置から多くの場合平均10 km程度位置ずれを起こして発生していることを明らかにした。これは,雷放電帰還雷撃の直上とはずれた場所でスプライトが発生することを示唆しており,雷雲内で電荷が中和される中心領域が帰還雷撃の位置とは一致していないことを意味する。第二の業績は,スプライトと同時に観測された雷放電VHFパルスの放射源位置を,JEM-GLIMS搭載のVHF干渉計を用いて世界で初めて特定した点である。VHFパルス放射源位置はスプライトの親雷放電の発光領域内に一致しており,スプライトと親雷放電の時間・空間的な差違を世界で初めて定量的に示すことができた。第三の業績は,雷放電と高高度放電発光現象の全球発生頻度分布を特定した点である。国際宇宙ステーションの軌道特性から地方時に依存しない高高度放電発光現象の全球頻度分布の推定が可能であり,それを世界で初めて実現した。かつてない精度で高高度放電発光現象の全球頻度を推定したことにより,高高度放電発光現象が地球大気組成に与える化学的影響やグローバルサーキットに与える影響等を定量的に評価できることになった。第四の業績は,本研究をまとめた査読論文1本が掲載確定した点と,本研究に関する修士論文1本,卒業論文1本がまとまった点,国内・国際学会における招待講演を7件こなすなど,成果が続々と得られている点である。平成26年度になし得たこれらの業績を基に,平成27年度では,JEM-GLIMS光学観測データ,電波観測データ,および地上雷放電電波観測データを駆使し,スプライトが位置ずれを起こして発生した要因を解明すること,即ち本研究の最終目標に到達する予定である。
2: おおむね順調に進展している
JEM-GLIMSで得られる雷放電・高高度放電発光現象の真上光学・電波観測データから,(1)スプライトを複数例同定し,詳細な水平空間分布と親雷放電との時間的・空間的差違を明らかにできた点,(2)VHFパルス放射源を特定する手法を確立し,スプライトが観測された時のVHFパルス放射源との空間的・時間的差違も詳細に明らかにできた点,(3)雷放電と高高度放電発光現象の全球分布の初期結果が得られた点など,当初の計画通りに進捗しており期待通りの成果が得られているため。
平成27年度に実施する研究の目的と計画は,次の5つにまとめられる。これらの課題を推進するため,研究分担者および連携研究者と密に連携し定期的なサイエンス会議を開催して,情報共有と今後の解析方針について議論する。さらに国際学会等で海外の研究者と成果について議論し,課題を抽出する。1、高高度放電発光現象事例の詳細解析: 過去2年間に取得されたJEM-GLIMS観測データから,多くの高高度放電発光現象が検出されていることを確認している。しかし事例毎にスプライト,エルブス等の形態分別が未だにできていない。これらを実施し,全てのスプライト事例に対して空間分布の特徴と親雷放電との位置関係を定量的に推定する。2、電波観測データとの詳細解析: スプライトと同時にJEM-GLIMS電波観測器で検出されたVHFパルスデータ,およびVLFデータを解析し,親雷放電の電気的な放電特性を明らかにするとともに,スプライトとの時間的・空間的差違をより詳細に比較検証する。3、FDTDモデルによる雷雲上空での電場強度分布の推定: 高高度放電発光現象を引き起こした親雷放電の電気的特性と時間・空間変化を,JEM-GLIMSデータおよび地上ELF/VLF波動観測データから推定し,それらの物理量を初期値として,時間領域差分法(FDTDモデル)を用い,雷雲上空での準静電界強度・放射電界強度の時間・空間変化を推定する。これによってスプライトの発生条件を解明する。4、高高度放電発光現象の全球分布・LT依存性・季節変動の特定: JEM-GLIMSで観測された約2年間分のデータから雷放電と高高度放電発光現象の全球頻度分布の初期解析結果が得られた。今年度は,この解析内容をさらにブラシュアップして推定誤差が小さくなるようさらなる解析を進める。5、積極的な成果発表: 引き続き国内外の学会で積極的に成果を発表するとともに,査読論文への投稿を進める。
国内学会および国際学会の予稿投稿費,参加費の支払い手続きが2015年3月末までに確定・完了しなかったため。
すみやかに国内学会および国際学会の予稿投稿費,参加費の支払い手続きを完了させる予定で,これにより繰越額は全て使用する予定。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (26件) (うち招待講演 8件) 備考 (3件)
Journal of Geophysical Research - Atmosphere
巻: 120 ページ: 1-30
10.1002/2014JD022428
http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~jemglims/index.html
http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~msato/
http://www1a.comm.eng.osaka-u.ac.jp/JEM-GLIMS/