研究課題
本研究の目的は沈み込みプレート境界における応力および有効摩擦係数の地震サイクルに伴う変化を時空間的に明らかにすることである。本年度に行った研究内容及び成果、意義は以下の通りである1. 台湾中軸部において、チェルンプー断層の表層露頭を対象に小断層データを取得し、応力逆解法を行った。この結果を精査したところ最大圧縮方向が北西南東方向の低角軸生圧縮場と高角軸生伸張場を得た。これまで地震性の応力を示すのみと考えていたが、この応力状態の違いは東北地方太平洋沖巨大地震で見られた、地震前後の応力変化、すなわち水平圧縮場から垂直圧縮場への変化と対比できる可能性がある。2. 沖縄県四万十帯嘉陽層において小断層解析から古応力の推定を行った。沖縄県四万十帯嘉陽層は、過去の研究から引きはがし付加体と考えられており、沈み込み帯浅部の変形を記録していることが期待されている。本結果からもやはり、水平圧縮場と垂直圧縮場の両方の結果が得られた。このことは、付加体浅部においても、東北で見られたような応力変化があったことを示唆しており、巨大地震に伴う応力降下の影響であることが予想される。3. 四国白亜系四万十帯横浪メランジュ北縁断層(五色ノ浜断層)において、上盤下盤の弾性波速度を測定した。上盤は砂岩主体の整然相であり、下盤が泥岩主体の横浪メランジュである。この境界における弾性物性の差を検討した。その結果、上盤が下盤に対して弾性物性が大きい傾向が得られた。これは、五色ノ浜断層が反射法断面のデコルマで見られるような負の極性を持つ反射面として捉えられることを示している。Amplitude variation of offset(AVO)解析によって反射断面から得られる反射係数と対比したところ、現在の南海トラフを説明できるような物性差ではなかった。より深部の結果を見ていることを示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定になかった沖縄県四万十帯嘉陽層の調査は、沈み込み帯先端部分の履歴を見る上で重要な地域となった。津波地震のメカニズムとして、浅部の巨大すべりが指摘されており、この地域の結果はその対比として捉えることができる。また、得られた結果は、東北巨大地震で見られたような地震の前後の応力変化に対比できる可能性があり、より詳細に検討する必要がある。一方、台湾チェルンプー断層で得られた結果も、精査の結果やはり東北巨大地震で見られた応力変化と対比できる可能性がある。1999年台湾集集地震で得られたすべり分布から、本研究で対象としているチェルンプー断層北部が、発振から遅れて浅部において巨大すべりを引き起こしていることが分かっており、東北で見られたような浅部の巨大すべりと同様に津波地震の特徴を有する。今回えられた沖縄県四万十帯嘉陽層の結果と、台湾の結果は、過去に活動した小断層から津波地震前後の応力変化の記録を読み取ることができたことを示唆している。四国白亜系四万十帯横浪メランジュ北縁境界断層における物性差の検討からは、より深部の地震発生帯内部における物性境界の結果を見ている。この物性差は予想に反して上盤と下盤での差がそれほど大きくなく、現在得られている深度での反射法断面データと対比できるものではなかった。沈み込み帯における物性変化の岩相依存性をより詳細に検討する必要があることを示している。砂岩と泥岩といった岩相の依存性すら、これまで物理観測では検討されていないことから、天然で見られる物性境界の岩相依存性を取り入れることで、より現実的な解釈とメカニズムの理解が可能になることが期待できる。
今後の研究の推進方策は大きく3つに分けられる。1. 沖縄県四万十帯嘉陽層小断層の位置づけを明らかにする。沖縄県四万十帯嘉陽層の小断層は、現在陸上に露出した断層であって、浅部で活動した可能性もある。観察では鉱物脈を伴う断層も少なくないなど、深部の活動を示唆する産状も見られる。より定量的に活動深度を求めるため、断層に伴う粘土鉱物の構成や、イライト結晶度などを用いた古地温解析などを行う予定である。2. 台湾チェルンプー断層掘削コアの弾性波速度解析:台湾チェルンプー断層の小断層解析は一段落をしたと言える。この応力にある程度の定量的な議論をするために弾性波速度から得られる弾性物性を測定する。弾性物性はいわゆるバネ定数的な物性であり、応力の大きさを議論する上で有用なパラメータである。3. 四国白亜系四万十帯横浪メランジュの流体包有物解析:四国白亜系四万十帯横浪メランジュの物性獲得プロセスを理解するために、流体包有物解析を行い、変形時の温度圧力履歴を検討する。これは、小断層活動時の深度、および温度条件を明らかにすることになる。沈み込み帯浅部から深部地震発生帯に向かってどのように物性が変化するかを、温度圧力の条件とともに明らかにする。
昨年度は主に野外調査旅費、実験消耗品等を予算として計上していた。野外調査では、調査補助の学生を増やし、日数を減らした上で調査効率を高めたことで、旅費の経費を減らすことに成功した。台湾では共同研究者の学生も参加してくれたことで、その効果が高まった。沖縄調査も同様に学生を増やすことで日数を減らしたことが予算の節約に繋がった。実験関連消耗品については特に弾性波速度の計測の熟練度が上がり、高価な円筒形ゴムラバーの消耗が少なかったことが、節約に繋がっている。沖縄調査の結果が想定を超えて興味深いものを示しているので、本年度も継続することにした。その旅費にあてたいと考えている。
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