研究課題
1.断層岩の化学分析(主成分・微量元素分析および同位体分析)等による下記の成果が国際学術誌に論文として公表された。(1)長野県大鹿村の中央構造線の断層岩の分析に基づき、この活断層が高ナトリウム・リチウムの有馬型深部流体の存在下で、地震時に最高250℃の流体岩石相互作用を経験し、熱圧化も生じた可能性があることを示した成果。(2)南海トラフの掘削(IODP Exp.316)で得られた巨大分岐断層コア試料の分析データについて化学平衡論、反応速度論の両方を考慮した新しい解析法を導入し、地震時の断層温度が150~250℃程度であったことを示した成果。(3)アラスカのコディアック付加体中の化石断層(地震発生帯深度のプレート境界断層に相当)の分析に基づき、地震時の断層内で350℃以上の流体岩石相互作用が生じたことを明らかにした成果。(4)台湾チェルンプ断層掘削試料の微小組織や炭質物の観察に基づき、最新の滑り帯における超微細粒子の存在や温度条件を示した成果。(5)流体過程を解析するための基礎データである熱水および海洋地殻中のホウ素同位体比の変化とその成因を示した成果。2.IODP東北地方太平洋沖地震調査掘削(JFAST)試料のホウ素同位体分析により、プレート境界断層およびその周囲が地震時に比較的低温で、高温流体との相互作用があったとすればそれは極めて限られた部分で生じたという予察的なデータを得た。この成果についてはAGU Fall Meeting(2014年12月、米国サンフランシスコ)で発表した。3.断層岩の化学分析を用いた地震時の流体岩石相互作用の評価法の現状と展望について、Goldschmidt国際会議(2014年6月、米国サクラメント)で招待講演を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
本課題により中央構造線とコディアック付加体の断層帯で新たに地震時の高温流体岩石相互作用の証拠が得られ、断層岩の化学分析による地震時の熱圧化評価への道が大きく拓けてきた。また、新しい地球化学的ツールであるホウ素同位体分析の導入により、当初予定していなかった東北地方太平洋沖地震の断層帯最浅部における地震時の流体岩石相互作用の実態が判明しつつある。2013年度の東北地方太平洋沖地震断層帯に関する研究成果(サイエンス誌掲載)に続き、2014年度も断層岩に関する研究が5本の論文として査読付き国際学術誌に掲載され(その他に関連基礎研究に関する論文2本掲載)、世界最大級の地球化学系国際学術会議であるGoldschmidt国際会議においてこれまでの成果が認められ招待講演を行うなど、研究は当初の計画以上の進展を見せている。
本課題の最終年度である2015年度は、これまでに得られた成果を取りまとめつつ、断層岩の化学データの補強やデータ解析法のさらなる改良を行い、本手法を用いた地震時の断層プロセス研究をさらに発展させるための方向付けを行いたい。
2013年度の研究進捗が予想以上で大きな成果が得られたため、2014年度には2015年度に行う予定であったデータの取りまとめと論文執筆の一部を前倒し実施した。そのため当初予定していたうち、一部の断層岩の微量元素分析・同位体分析が2015年度実施となった。
断層岩の微量元素分析・同位体分析において使用する実験消耗品の購入費および研究成果発表等のための旅費として使用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
Chemical Geology
巻: 396 ページ: 61-73
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10.1016/j.chemgeo.2014.11.009