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2013 年度 実績報告書

過去で未来を守る:保全古生物学の確立に向けて

研究課題

研究課題/領域番号 24340128
研究機関東北大学

研究代表者

千葉 聡  東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (10236812)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワード進化 / 陸貝 / 小笠原 / 化石 / 絶滅
研究概要

人間活動によって、生態系がどのように変化したかを調べるため、小笠原諸島や琉球列島の陸貝化石の炭素、酸素同位体比の分析を行った。これと殻の形態解析の結果との比較に基づいて、それぞれの集団の生活様式の推定を行った。次に、これと日本各地の現生陸貝から得られた生態情報と殻形態の情報との比較から、上記の関係の一般性を検討した。
さらに前年度の解析に引き続いて、小笠原の砂丘や河床、洞窟から採取された陸貝化石の年代を、AMS法年代測定と較正曲線による暦年代推定により求めたところ、5万年前以降の年代を示すもので構成されることが再確認され、さらに1万年前と300年前に群集構成や殻の形態に大きな変化が生じていることが示された。またそれ以外の時期も、5万年前から1万年前にかけて、種の絶滅が生じ、徐々に種数が減少する傾向が認められた。
前年度に引き続き、各地点の化石の産出状況の解析と、それに基づく環境推定を行い、人が入植する以前の陸貝相やその形態的特徴、さらに当時の陸貝の生態やそれをとりまく生態系の推定を行った。δ13Cとδ18Oの分析結果から、環境、特に植生の変化が1万年以前と300年前生じていることが再確認された。このことから最終氷期の終わる今から1万年前に、植生が大きく変化したこと、そしてその後、人の入植した300年前以降にも大きな植生の変化があったことが示された。さらに1990年以前の殻試料と20年後の試料との比較から、最近20年間に、殻の色彩型の頻度に変化が生じたことが認められた。以上の結果から、300年前以降に生じた殻の特徴の変化は、植生環境の急速な変化への応答を示すものであり、またそれは人為的な環境改変を示すものであると考えられた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

交付申請書に記載した、化石記録の年代決定と、安定同位体比を用いた古環境や生態型の推定、そして形態の時系列変化の解析が予定通り進行し、かつ当初想定していた仮説の検証を行い、十分に当初の予測を支持する結果を得ることができた。これは予想以上に多くの保存状態の良好な陸貝化石を得ることができたことに起因する。しかもその多くがかなり古い時代のものであり、本研究を進めるうえで、特に有用なものであったためである。このような事情もあり、最終氷期末の地球環境の変動による絶滅を十分な精度で検出することができたのに加え、人為的な環境変化が、どのような群集の変化、進化的変化をもたらしたかも明らかにすることができた。
交付申請書に記載した目標のもうひとつの重要な点は、殻の形態の違いに基づき、安定同位体比や現生の種類のデータを援用して、その生態や環境、植生との関係を明らかにすることである。この点は、特に現生種を用いた研究によりかなり明らかにすることができ、その関係から化石への応用が十分可能な状況になっている。これらの成果は、今後順次論文として発表する予定であり、これまでの研究の成果に対し評価を仰ぐ予定である。

今後の研究の推進方策

本研究の目的である化石記録の年代決定と、安定同位体比を用いた古環境や生態型の推定、そして形態の時系列変化の解析、そして形態による植生と環境の推定、という研究項目が、ほぼ達成できる見込みとなったことから、今後は、これらのデータを活かして、特に小笠原諸島における過去の環境変化、植生変化のパターンを推定することを目指す。この変化には、過去の気候変化に伴う変化と、人為的な開発に伴う変化を区別して評価する。そして得られた結果から、特に父島、母島、南島をモデルとして、人為的な開発が始まる以前の植生を、可能な限りのレベルで推定する。
得られた結果から、今後、破壊されて外来種に置き換えられた植生を在来種を中心とした植生に置き換える際の目標設定に役立てるような植生タイプマップの作成を目指す。また現在、域外保全から保全的導入が検討されている陸貝種について、導入候補地の環境および上記の解析結果を踏まえて、導入の適切さ、導入に際してのリスクや注意点、必要な植生のデザインなどについて提案する。また逆に現在域外保全を行っている陸貝種ないし集団の、野外への導入先の候補地について、上記の成果に基づいて提案する。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2014 2013 その他

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)

  • [雑誌論文] Phylogeny of the land snails Bradybaena and Phaeohelix (Pulmonata: Bradybaenidae) in Japan.2014

    • 著者名/発表者名
      Hirano, T., Kameda, Y., Chiba, S
    • 雑誌名

      Journal of Molluscan Studies

      巻: 79 ページ: in press

    • DOI

      10.1093/mollus/eyu004

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Long-term stasis and short-term divergence in the phenotypes of microsnails on oceanic islands.2013

    • 著者名/発表者名
      Wada, S., Kameda, Y., Chiba, S.
    • 雑誌名

      Molecular Ecology

      巻: 22 ページ: 4801-4810

    • DOI

      10.1111/mec.12427

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Adaptation from restricted geometries: The shell inclination of terrestrial gastropods2013

    • 著者名/発表者名
      Okajima, R., Chiba, S.
    • 雑誌名

      Evolution

      巻: 67 ページ: 429-437

    • DOI

      10.1111/j.1558-5646.2012.01772.x

    • 査読あり
  • [雑誌論文] The mucus of a land snail love-dart suppresses subsequent matings in darted individuals.2013

    • 著者名/発表者名
      Kimura, K., Shibuya, K., Chiba, S. (2013)
    • 雑誌名

      Animal Behaviour

      巻: 85 ページ: 631-635

    • DOI

      org/10.1016/j.anbehav.2012.12.026

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Delayed spermatophore removal from the mate’s genitalia in the land snail Euhadra peliomphala.2013

    • 著者名/発表者名
      Kimura, K., Chiba, S.
    • 雑誌名

      Biological Journal of the Linnean Society

      巻: 108 ページ: 806-811

    • DOI

      10.1111/bij.12008.

    • 査読あり
  • [学会発表] Adaptation in land snail shell shape―30 years since Goodfriend

    • 著者名/発表者名
      Schilthuizen, M., Chiba, S
    • 学会等名
      World Malacological Congress
    • 発表場所
      Azores, Portugal
    • 招待講演
  • [学会発表] スケールを変えてみた在来種の外来種への応答

    • 著者名/発表者名
      千葉聡
    • 学会等名
      日本生態学会
    • 発表場所
      広島
    • 招待講演
  • [学会発表] Evolutionary impacts of nonnative species: antagonistic changes in colour polymorphisms of land snails between local populations and metapopulations.

    • 著者名/発表者名
      Chiba, S
    • 学会等名
      World Malacological Congress
    • 発表場所
      Azores, Portugal
    • 招待講演

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公開日: 2015-05-28  

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