研究概要 |
H24年度は,おもに白亜系蝦夷層群(北海道)で野外調査を行い,オルステン型化石鉱脈の保存の可能性のある地域・層準について予察的な調査を行った.その結果,中型-大型アンモナイトの死後,その死殻の内部あるいはヘソの下側の空洞に他の動物の糞粒ペレットが微弱な水流で掃き寄せられている産状を発見した.また,その中に直径2-3mmのアンモナイトの胚殻サイズの個体が集まっている産状を発見し,詳細な野外観察を行った後,採集した. これらアンモナイト殻内のサンプルは,オルステン型化石鉱脈を生む『汚物だめ保存』としてはまだ糞粒ペレットの密集度が低く,3D化石を含むとしても頻度が低いことが予測される.また,セメント物質も炭酸塩(方解石,菱鉄鉱),リン酸塩,硫化鉄などさまざまなケースを想定しなければならないことがわかった.そのため,非常に脆い3D保存化石を壊すことなく完璧な状態で取り出すため,現在,最適な処理方法を模索しながら,慎重に処理をすすめている最中である. 他方,蝦夷層群の化石群とは時代や地域のまったく異なる化石群中で,オルステン型化石鉱脈に比較できる例を共同研究者とともに探した.その結果,神奈川県横須賀市の複数の完新統ボーリングコア中に糞粒ペレットの密集層があり,その中に付属肢を保った介形虫の遺骸が保存されていることを見いだした.これは,オルステン型化石鉱脈がごく普通の地質現象に起因し,いつの時代でも保存されうることを示す傍証となる.さらに,中新統対州層群(長崎県・対馬)中に,スウェーデンのオルステン型化石鉱脈の模式層序と非常によく似た黒色石灰岩が挟まれており,その中に糞粒ペレットの密集層が挟まれていることを新たに発見した. これらの結果を踏まえ,オルステン型化石鉱脈についての予察的な検討,および関連する化石の産状について研究成果の一部をまとめ,学術誌に公表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本テーマに関する先行研究が一切ない状態で,しかもH24年度は大規模な崖の崩落により現地の露頭条件があまり良くなかったが,白亜系蝦夷層群のアンモノイド化石の殻内に『汚物だめ保存』を想起させる糞粒ペレットの集積層を確認できた.この産状からは3D保存の化石の産出が期待できる.また,時代や地域の異なる例を探したところ,完新統コアと中新統黒色石灰岩中に,オルステンの模式層序と非常によく似た岩相の堆積物を見いだした.これも3D化石の産出が期待でき,次年度以降の研究に活かすことができる.
|
今後の研究の推進方策 |
蝦夷層群で得られた産状を手がかりに,蝦夷層群での本格的な野外調査および分析を行い,軟体部が保存された3D化石の完全体の検出を試みる.さらに,時代・場所が異なる国内外の地域(模式層序のあるスウェーデンおよび北米中西部を含む)で同一の視点からの調査を行い,化石の保存・産状を比較検討してオルステン型化石鉱脈の成因をさらに詰める.このような作業によって,オルステン型化石鉱脈がカンブリア紀特有の産状ではなく,いつの時代・場所でも起こりうる一般現象であるという日本独自の仮説を検証し,世界に公表したい.
|