研究概要 |
揚子地塊は,「微生物礁から骨格生物礁への構築様式の転換」や「オルドビス紀生物大放散」が世界に先駆けて開始した特異な地域である.本研究の目的は,これら「顕生累代のおける地球生物相の大変革」 の背後要因を解明することである.平成24年度の成果は次の通りである. 1.中国湖北省に分布する下部カンブリア系(天河板層)の「古杯類-石灰微生物礁」の形成様式を解明した.とりわけ,石灰微生物類の構成,組合せ,遷移を詳細にし,微生物類は,被覆・結束作用を通じて,礁の堅牢な枠組みを構築したことが判明した. 2.カンブリア紀前期末における「古杯類礁の大衰退」と,その後の,長期間に渡る「石灰微生物礁の発達」の背後要因を調べるために,同紀前期末に形成された石灰微生物礁(湖南省花垣地域の清虚洞層中)の特性を調べた.本礁は,全球的な微生物礁発達の先駆け的な存在であり,大規模火成活動に起因する海洋環境の無酸素化・硫化事変が,骨格生物礁の形成を抑制した主要因である可能性がある. 3.揚子地塊のカンブリア系との比較のために,北中国地塊に属する山東省長清・莱莞地域の中部カンブリア系(張夏層)微生物礁の形成様式を調べた.Epiphytonが多様な成長・集合様式をとることで生物丘が形成されている.また,江蘇省徐州の先カンブリア系(とくに震旦系)中のストロマトライト礁の野外調査を行なった.これらの礁の形成様式は,地域的・時代特異的な海洋環境を知る重要な手掛かりとなる. 4.骨格生物礁での「枠組み構築様式」を明らかにするために,六射サンゴで代表される「群体形成様式」 の本質的な理解に努めた. 5.今後,沖合や陸域で堆積したカンブリア系の岩相,含有元素,微化石等の検討を行ない,当時の微生物活動,陸域と海域での相互作用(物質循環など)や海洋動態の詳細を明らかにする必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的の箇所で野外調査を行ない,礁の産状に関する基礎的なデータや,保存良好な試料を獲得できた.その後の室内作業を通じて,新たな知見を得,今後の研究の方向性を定めることができたため.
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今後の研究の推進方策 |
野外調査での観察データを重視しながら,顕鏡観察や化学分析作業を綿密に進めていく.さらに,そこで得た知見を,今後の野外調査に活かし,研究課題に関する考察を深めていく予定である.
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