研究概要 |
有孔虫にみられる共生現象の理解・背景・機能・役割を明らかにし,「共生が石灰質有孔虫の多様化を促進した」の検証を目的とした。24年度は,共生現象の理解と機能に着目し,アミノ酸窒素同位体比分析に基づく栄養段階推定・宿主有孔虫と盗葉緑体の分子系統解析・自家蛍光の観察・微小酸素電極を用いた有孔虫の呼吸量/酸素発生量の測定・透過型電子顕微鏡による細胞内の超微細構造観察を行った。 盗葉緑体や共生藻類の有無に違いがある底生有孔虫12種について,アミノ酸窒素同位体比から栄養段階を推定した。特に,付着性珪藻の葉緑体を盗葉緑体として持つ種では,一次生産者と一次捕食者の値を示し,微小環境や天候により栄養段階が変化することを明らかにした。微小酸素電極による酸素発生量・呼吸量の測定では,宿主有孔虫の旋回面で,酸素濃度が上昇していた。明環境の場合,盗葉緑体は細胞の縁辺部の壁孔直下に配置されることが超微細構造の観察から明らかになり,これが旋回面における酸素上昇を反映していた。また,盗葉緑体の光合成活性は,光強度により素早く変化することが明らかになった。光合成産物の産生(とその利用)も,素早く変化するため,これが栄養段階に反映されていると考えられる。明暗条件を変えた飼育実験では,暗環境の方が,盗葉緑体が維持されていることが,自家蛍光強度の観察から明らかになった。これに対して,明環境では,10日程度しか持たないため,頻繁に葉緑体を外部から獲得する必要がある。一方,餌を捕食する環境であれば,絶食した場合に比べて,盗葉緑体の維持期間が延びる。盗葉緑体の維持は,飢餓の時の緊急避難・餌生物の消化よりも効率の良いエネルギー獲得(葉緑体によるグルコースやアミノ酸の産生と宿主による利用)・岩礁地の複雑な地形や海藻類が繁茂する微小環境で,効率の良い資源獲得・石灰化への寄与など,複数の要因が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,当初目標を4項目(光合成活性の測定・遺伝子解析・安定同位体分析・殻の安定同位体分析)に設定し,各項目の分析を行った。特に,光合成活性の測定では,新規導入したPAMを用いた実験を開始するとともに,微小酸素電極を用いた呼吸量・酸素発生量の分析を行った。また,分子レベルのアミノ酸窒素同位体比分析を行い,栄養依存形態を明らかにした。上記のほか,25年度に予定していた透過型電子顕微鏡による細胞内超微細構造観察を行い,種ごとの存在形態を明らかにし,栄養段階と比較した。以上のことから,当初目標を達成できていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
盗葉緑体の獲得機構と維持期間,光強度に伴う酸素発生量の違いなどが明らかになったが,1)どの程度の光合成活性を持つのか,2)光合成で産生される炭素(グルコース)や窒素(アミノ酸)のどちらを宿主が利用するのか,3)光合成による有機物の産生だけが盗葉緑体の役割なのか,4》葉緑体を駆動するための遺伝的な背景は何かについては,明らかではない。この問題を克服するために,光合成活性の測定を行うとともに,葉緑体ゲノム解析から盗葉緑体の遺伝子構成を明らかにし,光合成駆動のメカニズムを推測するとともに,炭素・窒素・酸素同位体比分析から,宿主の資源利用形態から盗葉緑体の役割を推定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度末にかけて行った培養実験試料を用いて同位体比分析の外部委託を想定していたが,培養が困難な生物を対象としていたため,同位体分析にかかる試料を十分に集めることができなかった。このため,飼育実験を継続して行い,同位体分析に必要な試料数を確保した上で分析委託を次年度以降に行うこととした。
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