研究課題
本研究は,有孔虫にみられる盗葉緑体現象の理解・背景・機能・役割の解明から,「共生が石灰質有孔虫の多様化を促進した」の検証を目的とした。25年度は,有孔虫細胞内に存在する盗葉緑体の遺伝的多様性と役割,ミトコンドリア遺伝子の分取と予備的な遺伝子解析を行うとともに,石灰質有孔虫の進化と地球科学的な背景についての検討を開始した。宿主有孔虫は付着性珪藻由来の葉緑体を盗葉緑体として取り込むが,細胞内には複数の葉緑体16SリボソームRNA (rRNA) 遺伝子型が存在した。宿主有孔虫は,石灰藻の葉上を這い回る生態であり,この生活様式とよく一致した結果であると言える。さらに,有孔虫の種分化過程と地史学的な背景を複数遺伝子から明らかにするために,ミトコンドリア遺伝子の単離・抽出法の検討を行った。有孔虫類の仮足には,ミトコンドリアが存在し,核や葉緑体を含まないため,仮足を効率的に集めることができれば,汚染の少ないミトコンドリア遺伝子を回収できるはずである。解析の結果,仮足の分画では,ミトコンドリア23S rRNA遺伝子のみが増幅された。このことから,本研究で用いた仮足の回収方法がミトコンドリアの単離に有効であると言える。また,得られた遺伝子配列から相同性検索を行った結果,遺伝子データベースに登録のない新奇の配列であった。有孔虫類は浅海から深海などの様々な環境で進化し,多様な形態・殻の材質を持つ種が出現してきた。特に炭酸カルシウムの骨格 (殻) を持つ系統群は,微細藻類との共生後に派生したため,共生関係の構築が石灰質有孔虫類の進化に寄与した可能性が高い。特にガラス質石灰質有孔虫(Rotallids)の進化は,二次植物の放散以降に起こっており,本グループの進化や,珪藻との共生のタイミングとも一致しているように見えるが,さらなる検討が必要である。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は,当初目標を4項目(光合成活性の測定・殻の安定同位体分析遺伝子解析・葉緑体遺伝子解析)に設定し,各項目の分析を行った。特に,光合成活性の測定では,24年度に導入したPAMを用いた実験で良好な結果を得た。一方,顕微鏡下で測定する場合に,個体の動きが影響し測定誤差を生じることも明らかになった。宿主有孔虫は,付着性珪藻由来の盗葉緑体を獲得していることから,宿主有孔虫の盗葉緑体獲得機構が,珪藻の生態と宿主の生活様式と相関していることを示した。この結果はは,堆積物内に生息する盗葉緑体を保持する有孔虫が,表層からのフラックスに依存した珪藻葉緑体を盗葉緑体として獲得していることと対比できる成果であると言える。また,当初予定していた葉緑体の遺伝子解析だけではなく,26年度に予定していたミトコンドリア遺伝子の単離・抽出法の検討を行い,良好なデータを得ることができた。これまで,有孔虫のミトコンドリア遺伝子を解析した研究例はなく,石灰質有孔虫の進化と地球科学的な背景を『複数遺伝子から』明らかにするために新たな遺伝子マーカーを導入できる体制を整えた。以上のことから,当初目標を十分に達成できていると判断した。
これまでの2年間にわたり,盗葉緑体の獲得機構と維持期間,光強度に伴う酸素発生量の違い,明暗環境による光合成活性速度の違い,個体内や個体間の遺伝的多様性,宿主有孔虫の栄養段階などを明らかにしてきた。また,オルガネラの分取と予備的なミトコンドリア遺伝子の解析を行ってきた。しかし,光合成で産生される有機物の利用形態や光合成以外の盗葉緑体の役割,盗葉緑体を駆動させる遺伝的な背景は未解明である。この問題を解決するために,安定同位体分析,Mg/Ca比分析から,盗葉緑体の光合成が炭酸カルシウムの骨格形成に及ぼす影響を明らかにする必要がある。本研究項目を遂行するには,安定的に培養する必要があるため,培養法の確立とともに研究を行う。さらに,盗葉緑体と自由生活性珪藻の遺伝子構成を比較するとともに,新たな遺伝子マーカー(ミトコンドリア遺伝子)から有孔虫の種分化過程を複数遺伝子で行い,有孔虫進化とや地球科学的な背景・共生の成立と石灰質有孔虫の多様化のタイミングを明らかにする研究を展開する。
当初,分析や培養等にかかる経費を申請していたが,培養実験の進捗状況により,一部のみの分析にとどまった。基金として次年度に使用できることから,この実験にかかる経費を基金とした。上記分析にかかる費用を,分析費・消耗品費・分析委託費に使用する。予算使用項目の変更はないが,当初予定しいた,有孔虫の幼体からの培養を変更し,成体を利用することで,盗葉緑体の光合成による殻形成への関与を,酸素・炭素同位体比分析(分析消耗品費),Mg/Ca比分析(分析委託費・消耗品費),遺伝子解析費(分析委託費)および培養(消耗品費)から明らかにする。
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