研究課題
宿主-共生系は生物の多様性を生み出す要因の1つであり,多様な共生様式を持つ有孔虫進化の原動力となる。本研究では共生を介した有孔虫類の多様化機構を明らかにするため,有孔虫に見られる盗葉緑体現象の理解・背景・機能・役割の解明から「共生が石灰質有孔虫の多様化を促した」の検証を目的とした。平成26年度は,岩礁地性底生有孔虫Planoglabratella opercularisを対象に,盗葉緑体の遺伝的多様性解析,微細構造観察,アミノ酸窒素同位体比に基づく栄養段階推定,蛍光指示薬であるHPTSを用いた細胞質内のpH測定を行った。本種は,生息環境に生息する付着性珪藻から特異的に葉緑体を獲得し,それを宿主旋回面の壁孔直下に再配置していた。通常,葉緑体は宿主の核遺伝子により制御されるが,外来性の葉緑体だけを有孔虫が獲得した場合でも,その機能が保持されていた。この結果,季節や天候,微小生息環境あるいは生息姿勢,周囲の餌の状況に応じて速やかに栄養依存形態を変化させる混合栄養性であることを明らかにした。盗葉緑体による光合成により細胞内のpHが常に高い状態が保たれていることを明らかにした。本種はガラス質石灰質有孔虫の中でも高いマグネシウム(Mg)濃度の殻を形成する。通常,炭酸カルシウム殻の形成時には細胞内のpHを上昇させつつMgの排出を進行させる。一方,本種のように盗葉緑体が存在する場合には極端なpHの上昇が起きず,Mgの排出が制限される。その結果として,高Mg濃度の殻が形成される可能性が示唆された。盗葉緑体は単細胞から多細胞生物に観察される現象であり,一般的には,宿主が外来性の葉緑体を利用した有機物獲得という役割が推測されている。盗葉緑体を保持する有孔虫は外来性の葉緑体を利用し有機物を産生させるだけではなく,細胞質内のpH調整を行うことで高Mg殻の形成にも寄与するという新たな役割を示した。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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Journal of Eukaryotic Microbiology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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