研究課題/領域番号 |
24340133
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小暮 敏博 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50282728)
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研究分担者 |
和田 信一郎 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60108678)
中井 泉 東京理科大学, 理学部, 教授 (90155648)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 土壌汚染 / セシウム / 粘土鉱物 / 電子顕微鏡 / 放射能 / オートラジオグラフィー / 黒雲母 / バーミキュライト |
研究概要 |
今年度は備品として導入した真空ピンセットとマニピュレータにより、IPオートラジオグラフィーで特定した放射性土壌粒子の迅速な採集が可能となった。この手法を用いて福島県森林の放射能の高い腐葉土中の放射性土壌粒子を観察・分析した。この結果、放射性粒子は大きく3つ(鉱物微粒子の凝集体、有機物-粘土鉱物複合体、花崗岩起源の風化黒雲母)に分類できた。最初の鉱物凝集体においては、その解析の結果やはり粘土鉱物が主要な鉱物種と考えられた。次の有機物-粘土鉱物複合体では、有機物を溶解した後に放射能を測定してもその強度があまり減じないことより、放射性Csは有機物ではなく、粘土鉱物に吸着していることが示唆された。最後に花崗岩起源の風化黒雲母については、形態は板状の単結晶のように見えるが、その断面を見ると風化により高密度の劈開をもつポーラスな構造を取り、そこにカオリン鉱物や水酸化鉄が沈着したものがほとんどであった。集束イオンビームにより板状結晶粒子のエッジ部分をトリミングしても放射能は大きく低下しないことから、放射性Csはこれまで提案されてきたように風化雲母のエッジ部分に多く吸着しているのではなく、おそらく劈開を通して板状粒子の内部にまで均一に吸着していると考えられた。これらの知見はまだ一地域の試料からのものに過ぎないが、放射性Csの土壌粒子への吸着の実態を微視的なレベルで初めて明らかにしたものであり、今後他の地域の試料等に対してもこのような解析を行うことで、福島の放射能汚染の実態がわかってくると思われる。一方今年度は福島花崗岩体の風化度の異なる風化黒雲母へのCs吸着実験を行い、溶液中のCs濃度が小さい場合はバーミキュライト層のみにCsが入ることを主に電子顕微鏡観察から明らかにした。また高分解能TEM/STEMによる雲母結晶中のCsの可視化方法について考察を加え、これを論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
レーザーマーカーで方眼スケールを形成したイメージングプレートによる放射性土壌粒子の特定法が非常にうまく機能したこと、適当な放射能強度の汚染土壌試料を入手できたことなどが計画以上に研究が進展した理由として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで放射性土壌粒子の選別・採集のためのハードウエアをほぼ研究室に設置することができた。今後はこれを用いて、福島放射能汚染地域の様々な地域や環境(山林、水田、河床、ため池、海岸など)における放射性粒子の同定を行っていく。国内の様々な研究者と連携し、汚染試料の提供を受け、結果を関連する機関に公表していく。その一方、収集された様々な放射性土壌粒子を試料として、それを例えば高濃度のMg+やNH4+の溶液と反応させ、放射性Csがどれほど溶出するかを、IPオートラジオグラフィーにより評価する。これにより、例えば化学処理による土壌の除染プロセスについて検討する。また放射能をもつ風化黒雲母などを加熱処理した場合の放射性Csの動態についても明らかにしていく。 これまでのIPオートラジオグラフィーにより同定された放射性土壌粒子の多くは、福島汚染地域の地質を構成している阿武隈-北上花崗岩中の黒雲母(biotite)が風化したものである。これまでの観察で、この風化黒雲母は非常に不均一な構造をしており、またそれに対応してCs+も不均一に吸着する。これをより詳細に観察・分析し、風化黒雲母へのCs+の吸着サイトに関する考察を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していた技術支援員の人件費を他の財源から補填することができたため。 基金の繰越はH26年度(最終年度)の技術支援員の人件費として使用し、より多くの成果を出していく予定でいる。
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