研究課題
これまで、熱水性石油の生成には250℃を超えるような高い温度が必要と考えられてきたが、熱水貯留層温度の推定値が最高でも250℃とされる鹿児島湾若尊熱水系でも熱水性石油は生成している。このことから、熱水性石油であっても石油様炭化水素が生成する温度帯、すなわちoil windowは、通常の石油と差が無いことが考えられる。そこで、平成24年度に採取された長尺のコア試料を用い、平成25年度は堆積物の経験温度を推定するため、間隙水および堆積物の地球化学分析を中心に進めた。熱水性石油の生成が確認されていた熱水湧出域近傍で採取されたコア試料(WLC1bコア)およびその湧出域から西へ約1kmの熱水噴出孔に近い地点で採取されたコア試料(WLC2コア)について50cm間隔で全有機炭素、全窒素濃度、それぞれの炭素、窒素同位体組成の分析を行うとともに、その一部について有機成分の抽出を行い、バイオマーカーによる熟成度評価を行った。その結果、WLC1bコアに比べWLC2コアで、n-alkaneの炭素数の奇数/偶数優位性を用いた熟成度が高く、コアの深部に向かって熟成度が上がり、最も深い場所(海底面下8.2m)でCPI = 1.7と有意な石油生成(もしくは移動してきた石油の混入)が認められた。一方、海底面で熱水性石油の存在が認められている熱水湧出域近傍で採取されたWLC1bコアでは高い熟成度は表層付近や海底面から2m付近と深度と無関係であった。これは、WLC1bコアでは間隙水中に熱水の混入が部分的に認められることと調和的で、一方、WLC2コアは深度と共にシリカおよびアンモニア濃度がほぼ直線的に上昇ことから、単純な地温勾配で制御されている可能性が考えられた。
3: やや遅れている
流体包有物や粘土鉱物の酸素同位体比を用いた地化学温度計の利用を想定していたが、流体包有物が発見できず、また、粘土鉱物も当初の推定より量が少なく改めて粘土鉱物の分離を進めている。そこで、現在新たな地化学温度計として粘土鉱物中のアンモニア態窒素を用いた方法を検証中である。
海底下の温度指標となり得る有機バイオマーカーの分析をこれまでの想定より種類を増やして進める。また、熱流量分布と間隙水中熱水成分の割合を用いた現在の海底下温度分布について三次元マップ化にも取り組む。
流体包有物が発見できなかったため、その測定に必要であった消耗品の購入を見送った。有機バイオマーカーおよびアンモニア態窒素同位体測定を追加的に行うため、そこで必要な消耗品費にあてる。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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http://earth.desc.okayama-u.ac.jp/~benthos/aira/