アモルファス炭素膜はすでに実用化されているにもかかわらず,成膜過程について不明な点が多く,それぞれの用途に合わせて成膜方法・成膜条件を最適化して使っているという現状である。それゆえ,医療応用,電子デバイスなどの精密さ・確実さが要求される分野への応用には難しい。 これまで研究代表者はその膜の成長過程を調べてきて,その中で,炭化水素のプラズマ中で生成される炭素の2量体やそれ以上の分子量を持つ高次ラジカルやイオンの挙動が重要であることを明らかにしてきた。そこで,本研究では高次ラジカルやイオンの成膜に至る反応過程を明らかにすることを目的にした。そこで,プラズマ中の成膜過程をその場・実間計測ができる多重内部反射赤外吸収分光法を用いて調べた。さらに,それらをうまく使って,原料となる分子の機能を壊さないで成膜し,分子自体の機能を併せ持つ膜を形成するに必要なプラズマ化学気相堆積の制御法を検討した。 まず注目したのが,有機分子の基本となる炭素の二重結合をもつエチレンやベンゼン分子である。これらの分子からプラズマ中で水素の解離をさせたラジカル・イオンを生成させ,膜の形成過程を調べた。その結果,ラジカルの構造を保ったままラジカル中の炭素の二重結合部を使った付加反応による膜堆積が生じていることが分かった。さらに,分子量をさらに大きくしてナフタレン等をプラズマ化して反応を調べたところ,分子量が大きくなると蒸気圧が低くなり成膜過程が安定しないことから,ベンゼン程度の分子量がアモルファス炭素膜の成膜には重要であることが示唆された。 さらに,ナフィオンに代替可能なプロトン分離膜の性質を持つアモルファス炭素膜の堆積を目指してチオール基やスルホ基を有する膜の成膜およびそれらの官能基とプラズマの安定性を調べた。それらの官能基と炭素との結合状態,すなわちC-S結合が膜形成に重要であることが分かった。
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