研究概要 |
本研究課題は,実細胞内の光受容タンパクが関与するラジカル・ペア反応に対して数mT程度の弱い磁場が及ぼす影響を顕微吸収分光手法を用いて調べ,生体反応の磁場効果の大きさをin vivoで測定することにより,弱い磁場が生体機能に及ぼす影響に関する知見を得ることを目的としている.平成24年度の研究計画期間には,以下のような成果が得られた. (1)実細胞を対象として,弱磁場をパルス印加できる環境下で空間分解的に吸収分光測定が可能である「磁場効果顕微分光装置(Magnetic Field Effect Spatially Resolved Spectrometer)」の開発を行った.MFE-SRS装置は分光計測系と顕微計測系から構成されており,in vitroな予備測定によってそれぞれの計測系の性能を確認し,ほぼ実用の段階に到達した. (2)前項で作製したMFE-SRS装置の分光計測系を利用して,フラビンモノヌクレオチド(FMN)/ニワトリ卵白リゾチーム(HEWL)のモデル系について,励起レーザー変調法による絶対吸収測定および磁場変調法による磁場効果の観測を行い,これまでの報告例と比較して,より低磁場の領域で高感度の磁場効果を観測することに成功した.また,絶対吸収測定による顕微計測系を用いて,励起FMNの空間分布を数10pm程度の空間分解能で観測することにも成功した. (3)FMN-HEWL系の測定データに対して,Haberkomモデルに基づく化学反応に関する項およびスピン緩和に関する項を含む全Liouville空間でのスピン動力学シミュレーションを実施し,FMN-HEWL系のラジカル・ペア反応ダイナミクスに関して新たな情報が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のMFE-SRS装置の開発に関して,平成24年度の当初計画がほぼ実現できた.さらに,フラビンモノヌクレオチド/ニワトリ卵白リゾチームのモデル系を対象としたin vitroな測定結果を国際会議(13^<th> International Symposium on Spin and Magnetic Field Effects in Chemistry and Related Phenomena)で発表する等の相応の成果が得られたことから,「(2)おおむね順調に進展している」と自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に沿って,MFE-SRS測定をより複雑な系に適用する.まずFMN/HEWL系の磁場変調測定から開始し,実細胞内でフラビンタンパク質から生成するラジカルの検出,光受容タンパク質を含む細胞を対象とした磁場効果顕微分光へと進む.並行して,実測データを解釈するためのスピン動力学シミュレーションを実施する.
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