研究課題/領域番号 |
24350003
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
酒井 誠 東京工業大学, 資源化学研究所, 准教授 (60298172)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 超解像 / 赤外分光 / イメージング / ナノ空間 |
研究実績の概要 |
本研究課題は「超解像赤外分光イメージングによるナノ空間機能解析」法の確立を最終目標としている。2波長レーザー分光法を光学顕微鏡技術に利用することで、光の回折限界を凌駕する極めて高い空間分解能、すなわち超解像を実現することが可能である。本研究課題では、この超解像レーザー顕微鏡法を中赤外波長領域まで拡張した超解像赤外分光イメージング技術を確立し、生体試料切片から生細胞に至るまで幅広く適用することで、ナノメートルスケールの極微小空間における局所構造・機能を分子レベルで観察・解析することが可能な「ナノ空間機能解析」法の確立を目指す。 平成26年度は、本研究課題によって新規設計・構築した赤外超解像顕微鏡(空間分解能:800 nm、エネルギー分解能:20 cm-1)を用いて、ナノ空間機能解析の一環として、毛髪の機能/特性の解析を中心に研究推進した。毛髪は、様々な人種/年齢/生活様式によってダメージ度が異なり、それにより強度や形状も大きく変化する。これらの違いが毛髪内部の局所構造変化から生じるのか否かを中赤外領域における超解像赤外分光イメージングにより精査した。例えば、カールの度合いの異なる毛髪に対してアミドⅢバンドにおいてα-ケラチンの毛髪内部の分布の観測を行い、カールの度合いとα-ケラチンの分布との相関を精査した。結果は、α-ケラチンは直毛においてはコルテックス全体で均一な分布である一方、カールの度合いが大きくなるにつれてカールの内側に偏って分布していることが明らかとなった。この結果は、α-ケラチンの毛髪内部の分布といったミクロスコピックな構造がカールの度合いといったマクロスコピックな形状を決めていることを示唆しており極めて重要である。加えて、本研究推進の過程で、毛髪α-ケラチンの分子配向イメージングにも成功し、本顕微鏡法は分子配向を含めた分子情報を抽出可能であることも併せて示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中赤外波長領域観察用の光学系を新たに構築し、毛髪試料に対してアミドバンド領域において超解像赤外分光イメージングをすることで、α-ケラチンの毛髪内部の分布および分子配向のイメージングに成功した。特に、α-ケラチンは直毛においてはコルテックス全体で均一な分布である一方、カールの度合いが大きくなるにつれてカールの内側に偏って分布していることを見出した事は、毛髪内部の分布といったミクロスコピックな構造がカールの度合いといったマクロスコピックな形状を決めていることを示唆する結果であり、極めて重要な成果と考えている。また、α-ケラチンの分子配向イメージングにも成功し、本顕微鏡法は分子配向を含めた分子情報を抽出可能であることも併せて示すこともでき、平成26年度前期は極めて順調に研究推進できた。しかしながら、平成26年11月、赤外超解像顕微鏡の光源であるチタンサファイアレーザーの結晶アッセンブリに不具合が生じたため研究ストップを余儀なくされた。研究推進を図るには新たに結晶アッセンブリの購入が必要となり、納品/設置まで3ヶ月の期間を要した。このマイナス部分を勘案して「おおむね順調に進展」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、ナノ空間機能解析の一環として様々な生体試料観察を試みる。特に、生体繊維状物質をターゲットに内部構造/配向観察を行い、ミクロスコピックな構造とマクロスコピックな形状にどのような相関関係があるのかを精査する。具体的な生体試料としては、毛髪と同じく主成分がα-ケラチンである羊毛(あるいはその仲間の動物の毛)やβ-ケラチン(β-シート構造を有するケラチンタンパク質)が主成分である羽毛や繭を検討している。
以上の研究推進を行うために、赤外超解像顕微鏡の検出感度、S/N比を最適化するために必要な光学部品およびフィルター類を随時購入し、実験を円滑に進める計画である。また、1年間の期間延長により、当初研究目標を上回る多くの成果を実現する計画なので、経費の一部は国内外の学会において、成果発表を行うための費用に充てる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年11月、赤外超解像顕微鏡の光源であるチタンサファイアレーザーの結晶アッセンブリに不具合が生じ、研究ストップを余儀なくされた。研究推進を図るためには、新たに結晶アッセンブリの購入が必須(本予算で購入)になるとともに納品/設置まで3ヶ月以上の期間が必要となった。このような状況下では、全ての研究計画を完了させるには至らないと判断し、未了の実験に用いる物品費等を来年度予算に繰り越すことにした。
|
次年度使用額の使用計画 |
未使用額は、第一に、実験光学系に組み込み赤外超解像顕微鏡の検出感度、S/N比を最適化するために必要な、光学部品およびフィルターの購入費用に充てる。これにより、平成26年度未了の実験を円滑に進める。また、1年間の期間延長により、当初研究目標を上回る多くの成果を実現する計画なので、未使用額の一部は、国内外の学会において成果発表を行うための費用に充てる。
|