本研究課題は、本研究者が開発した長距離補正(LC)密度汎関数法(DFT)によって初めて得られた高精度軌道エネルギーにもとづく簡便な反応軌道エネルギー論の開発を目的とする。当該年度も研究計画に従い、反応軌道エネルギー論の理論的基礎づけと半導体バンド解析に向けた2電子励起効果を取り込んだスピンフリップ(SF)LC-時間依存(TD)DFTの開発に取り組んだ。 まず、開発してきた反応軌道エネルギー論を従来の反応軌道論の理論的拡張として基礎づけることに成功した。反応軌道論のコンセプチュアルDFTの軌道エネルギーにもとづく理論への拡張として反応軌道エネルギー論を位置づけた。それにより、軌道エネルギー論の解析結果の物理的な意味づけや反応軌道論の適用性を明確化できた。 また、SF-LC-TDDFTによる半導体を含む拡張系のバンド(励起状態)計算を行なってきた。検証の結果、前年度までの結論とは異なり、1次元系のポリエンやオリゴアセンについて、SF-LC-TDDFTはきわめて高精度だが圧倒的に計算時間のかかるab initio多参照理論なみの高精度で励起エネルギーを与えることが分かった。このような高精度なTDDFTは史上初であり、TDDFTの究極目標を少なくとも1次元系計算においては達成することができた。 さらに、研究計画通り、反応軌道エネルギー論にもとづく燃料電池の酸素還元反応など金属触媒反応の活性評価法の開発にも取り組んできた。計画にもとづき、白金およびその合金触媒上の燃料電池の酸素還元反応解析に向けた白金ナノ粒子モデル計算を行なってきた。しかし、周期的白金表面と異なり、白金ナノ粒子は酸素吸着による構造変化がきわめて大きく、この計算は当初考えていたより圧倒的に難しいことが分かった。金属ナノ粒子触媒反応理論の構築は、物性分野との連携も必要とする今後の重要な研究課題となるであろう。
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