研究概要 |
強レーザー反応場中分子の「その場」観測に向けて,ポンプ用YLFレーザーを新たに導入し,2パスアンプからなる増幅段の新規構築を行った。チタンサファイア結晶冷却マウント,集光光学系の最適化によって,チタンサファイア再生増幅器からのレーザーパルスを入力として用いた評価では,実験に必要な増幅率(>5)が,ポンプパルスエネルギーを17mJ以上とした時に得られることがわかった。このシステムを用いて,波長80nmの単一次数高調波を用いたN_2分子の時間分解光電子分光を行った。Ti:Sapphireレーザー再生増幅器からの出力の第2次高調波(400nm)のパルスを超高真空チャンバー内に設置した高調波セル(媒質:Kr, 15Torr)に集光し,高次高調波を発生させた。In薄膜(厚さ100nm)を用いて高次高調波から第5次高調波のみを選択的に透過させ,波長80nmの単一次数EUVパルスを得た。これを残りの強レーザーパルス(800nm,~10^<13>W/cm^2)ともにN_2分子に集光し,生成した光電子の運動エネルギーを磁気ボトル型光電子分析器を用いて計測した。光電子スペクトルには,主としてN_2^+イオンの電子基底状態(X)における振動準位(v=0-4)を終状態とする光電子が観測された。ポンプ・プローブ時間遅延△tを変化させてこれらの光電子ピーク強度の時間変化を調べたところ,信号の立ち上がりは84(18)fsであり,相互相関計測の結果とよい一致を示した。また△t≧0.1psでは,どの光電子ピークも時定数が03psおよび3psをもつ2重指数関数で特徴付けられる減衰曲線を示すことが見出された。より詳細な計測を行ったところ,この減衰曲線には明瞭な量子ビートが観測され,XおよびA状態に収斂するリュードベリ波束の電子および核波束ダイナミクスが光電子スペクトルから読み出せることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強レーザー反応場中分子の「その場」観測に向けて,フェムト秒超短パルスレーザーシステムの増幅段の新規構築を行い,その有用性を示した。またこれを用いた時間分解光電子分光の実現を果たし,N^2分子における核および電子波束の生成およびその観測に成功し,計画に沿った研究の進捗を示している。
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