研究課題/領域番号 |
24350006
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
菱川 明栄 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50262100)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 強レーザー場 / 反応動力学 / 光電子分光 / 超高速分光 / 反応コントロール |
研究概要 |
新たに導入した増幅用YLFレーザーを用いて超短パルス極紫外(EUV)光電子分光系を構築した。波長 80nm のEUVパルスを近赤外(NIR)強レーザーパルスと同軸に窒素分子に照射し、そのダイナミクスの計測を行った。光電子スペクトルには,窒素分子イオンの異なる振動準位に対応する複数のピークが観測された。これらはすべてNIR-EUVパルス時間遅延の関数として約300 fs程度の周期をもつ明瞭な強度変調(ビート)を示した。スペクトルの解析から,ビート信号はEUVパルスによって励起されたリュードベリ状態ダイナミクスに帰属することができた。これから観測された周期はリュードベリ電子および,対応するイオンコアの極めて高速な運動(周期~3fs)の「うなり」と理解することができ, 超短パルスEUV光によって同時に生成したリュードベリ電子波束とイオンコア波束が示す極めて高速なダイナミクスが光電子信号に反映されることがわかった。 強レーザー場における分子過程の理解のため、希ガス原子の励起状態を対象として超短レーザーパルスによるドレスト状態形成過程を明らかにすることを目的とした。EUV光によって生成した励起原子に非共鳴強レーザーパルスを照射し,生成した光電子のスペクトルを計測した。これらの信号強度は,レーザー場強度の関数として周期的な変調を示すことが見いだされた。この強度変調は(i)強レーザー場との相互作用による準位エネルギーシフトによる共鳴,およびそれに伴う(ii)電子状態間のコヒーレント相互作用によるものであり,光ドレスト状態が超短パルス強レーザー場で多光子結合によって形成されることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
増幅レーザーの導入による超高速光電子分光計測系の構築,EUV高調波の発生に用いる紫外フェムト秒パルスの分散補償光学系の開発による高調波パルスの短パルス化など,実験装置の整備は順調に進んでいる。また窒素分子のリュードベリ状態ダイナミクスの観測と帰属を明らかにするなど,高い時間分解能を用いた研究の成果もあがりつつある。さらにこれまで研究が行われてきた基底状態を始状態とした強レーザー場過程ではなく,電子励起状態を対象として研究を行い,多光子過程によるドレスト状態形成過程を明らかにするなど,強レーザー場中分子過程の理解に重要な知見を得た。分子を対象とした強レーザー場過程の観測については当初計画よりやや遅れ気味であるが,上で述べたように実験設備の整備は終えており,来年度に分子を対象とした研究を進めることが十分可能である。
|
今後の研究の推進方策 |
希ガス電子励起状態を対象として見いだした多光子コヒーレント励起過程を,時間依存シュレディンガー方程式に基づく理論計算によって明らかにし,超短パルスレーザー場におけるドレスト状態形成機構について理解を進める。この知見をもとに,リュードベリ窒素分子について強レーザー場パルスをタイミングおよび強度を変えて照射し,ビート信号の変化から強レーザー場分子過程を明らかにする。また強レーザー場中NO分子,特に電子励起状態からの強レーザー場光イオン化に着目して研究を行う。このためにまずのUV光パルス照射による電子励起によって,どのようにイオン化過程が影響を受けるかを光電子分光計測に基づいて調べる。これをふまえて,強レーザー場中NOのEUV超高速光電子分光を行い,レーザー場における分子過程の変化をその場で観測する。これらの研究をまとめて,本課題の総括を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度は超高速光電子分光計測系を用いた計測により,超短パルスEUV光によって同時に生成したリュードベリ電子波束とイオンコア波束が示す極めて高速なダイナミクスや多光子コヒーレント相互作用にドレスト状態の形成等,顕著な成果が得られているため,本年度は主としてこれら2つのテーマに専念し,新しい物品の導入と学会などでの発表を控えたため。 UV光パルス照射による強レーザー場中NO分子のの超高速光電子分光を行うための光学部品の導入と,前年度の成果発表のための旅費にあてる。
|