研究実績の概要 |
強レーザー場における分子の電子状態がどのように変化するかを明らかにするために,ポンプ-プローブ光電子分光システムの構築を行い,これを高強度近赤外レーザー場におけるNO分子に適用した。チタンサファイアレーザー再生増幅器からの出力(795 nm, 55 fs, 1.8 mJ, 1 kHz)を2つのビームに分割し,一方を強レーザー場を発生させるポンプ光とし,また他方をβ-BBO結晶により第2次高調波(中心波長~400nm,時間幅110fs)に変換し,これをプローブ光とした。ポンプ光とプローブ光を同軸に重ね高真空チャンバーに導入したNO分子に集光し,磁気ボトル型光電子分光器を用いて光電子スペクトルを計測した。光学チョッパーを用いてプローブ光を1パルスおきに導入し,ポンプ光のみによって生じる背景信号を除去することによって,強レーザー場で誘起された電子状態変化を感度よく検出することができた。ポンプープローブ時間遅延を150 fsとして得られた光電子スペクトルにはNO+イオンの電子基底状態における振動準位の違いに対応する複数の光電子ピークが観測された。プローブ光強度に対する信号強度は2次の依存性を示し,プローブパルスの2光子吸収によって光電子が生成したことがわかった。観測されたエネルギーから,これらの光電子は中性NO分子のB2Pi状態に由来することが明らかになり,強レーザー場によって比較的高いエネルギー(~6eV)をもつ電子励起状態が効率よく生成していることが見いだされた。本研究で用いた手法によってレーザー場強度や中心波長などレーザー場パラメータによるB状態振動準位分布の変化を捉えることで,強レーザー場中分子の電子ダイナミクスを明らかにできることが示された。
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