蛋白質・溶液等の凝集系における分子の励起状態を正しく計算しなければ、光が関わる生命現象の分子メカニズムの解明や光増感太陽電池の分子設計は不可能である。その為には、環境を構成する分子(以下、「溶媒分子」)の量子的効果を記述できる理論を開発することが必要である。 H24年度は、凝集系における溶質-溶媒分子複合系の励起波動関数の構造を研究した。 (i)確立した励起状態理論を理論的出発点とし、(ii)開発した局在化分子軌道を一電子基底として用い、溶質-溶媒間の励起状態における分子間相互作用の解析的な表現と、それを表現するために必要な波動関数の構造を求めた。実際に、導かれた波動関数を用いて励起状態の計算を行い、数値検証を行ったところ、理論的考察を裏付ける結果が得られ、理論的に寄与の小さい項は、数値的にも無視できる程度の寄与しか与えないことを実証した。 H25年度は、凝集系における溶質-溶媒分子複合系の分子間相互作用における高次項の導出を行った。具体的には、(i)励起状態理論から励起エネルギーを表現する演算子を求めた。この演算子が基底状態の波動関数に作用した際 に現れる一次の相互作用空間を解析することで、分子間相互作用を記述する波動関数の表現とその物理的意味を求めた。(ii)次に、その寄与を評価すべく、分子間相互作用系の波動関数を摂動論で解くため方程式を導出した。(iii)その方程式を計算機で解くためのプログラム開発を行った。 H26年度は、開発したプログラムを用いた応用計算を行った。電荷分離性の強い励起状態を持つ分子を取り上げて、溶液中における励起状態を計算した。その結果、電荷分離の距離に応じて溶媒分子の分極効果が強くなる傾向が確認でき、また、その分極効果が溶媒構造において局所的に表れることが明らかになった。今後、動力学との関わりに関する研究へと展開する計画である。
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