研究課題/領域番号 |
24350009
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
冨宅 喜代一 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (00111766)
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研究分担者 |
大島 康裕 分子科学研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (60213708)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 核磁気共鳴 / 気相イオン / 質量分析 / 極低温冷却 / 電子衝撃イオン化 / 光電子 |
研究概要 |
本研究では、新しい測定原理「磁気共鳴加速法」に基づく磁気共鳴検出装置を開発し、気相分子イオンやクラスターイオンのプロトンNMR分光の基礎的研究を初めて行う。気相イオンの非常に弱いNMR信号を検出するために、NMRセル内に捕捉した試料イオン束の並進温度を極低温に冷却して傾斜磁場内を往復させ、RF磁場をセル両端で印加してスピン分極させる。この分極を種々のRF周波数で飛行時間差として測定し、NMRスペクトルを得る。NMR検出システムを改良し、スピン分極の検証と定量化を進め、NMR分光法を確立する。平成25年度は、前年度に製作したイオン源と金メッキを施したNMRセルの整備を進めた。イオン光学系に残存する浮遊電場の影響を調べるため、パラキシレン等のイオンを低速で発生して透過効率を測定し、NMRセルの電気特性を詳細に検討した。またNMRセル表面に残存する水分は浮遊電場の大きな原因となるため、新たにセル全体を加熱し水分を除去できる超伝導磁場下で使用可能なベーキングシステムを開発した。この結果、浮遊電場の問題が大きく改善された。また浮遊電場の制御と極低温イオン束の発生法の開発の一環として、上記の金メッキを施したセルと比較検討するために、新たにグラファイトコーティングを施したNMRセルの開発を行った。これまでの実験ではイオン源として分子線のレーザー光イオン化法を採用したが、本NMR装置で扱えるイオン種を拡張するために、電子衝撃型のイオン源が必要となる。このため予備実験として金属表面へのレーザー光照射で発生する光電子を利用した超伝導磁石内の高磁場下で使用可能な電子衝撃イオン源を製作した。今後は、新たに製作したイオン源をさらに改良するとともに、極低温のイオン束発生法を確立し、測定原理の検証と気相イオンのNMRスペクトルの研究を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではイオンの極低温冷却が重要となる。このためNMRセルを構成するイオン光学系の金属表面に残存する浮遊電場の制御と除去が重要な要素技術となる。この問題を克服するため、前年度に製作した金メッキを施したセルに加え、金属表面状態の大きな改善が予測されるグラファイトコーティングを施したセルの製作を進めた。この研究条件を満たすグラファイトの粒子サイズと塗布表面の均一性の整ったコーティングは企業委託ができないため、研究の一環として必要な精密塗装技術を新たに独自で開発したため、NMRセルの製作に計画で予測できなかった時間を余分に要した。また次年度に計画している新しいイオン源の製作の準備を前倒しで進めたため、当初計画からやや遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
イオン光学系の浮遊電場を極力抑えるため次年度はグラファイトコーティングしたセルを精査し、セルの特性を改良しながらイオンの極低温冷却法を確立し、標準イオンのスピン分極の観測と気相イオンのNMR検出の原理検証を進める。また検出感度を改善してNMRスペクトルの測定法を改良するとともに、電子衝撃イオン源等を導入して測定できるイオン種を拡張すると共に気相イオンの新しい分光法としてNMR分光法を開拓していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を進める中で測定の対象となるイオン種の拡張のため新しいイオン源の開発の予備実験を行ったが、イオン源の改良を進めるために新たに電圧増幅器の導入が不可欠であるという結論に至った。次年度のイオン源の完成の計画の中で、当初計画になかった電圧増幅器の導入を勘案し、またイオン源の開発に新たに必要となる経費を含め基金の一部を次年度使用とした。 次年度初めに電圧増幅器(NF回路設計)を購入するとともに、イオン源の開発費として電極の製作費やレーザー光源のフラッシュランプおよびレーザーミラーの購入費等に充当する。
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