本研究では、新しい測定原理「磁気共鳴加速法」に基づく気相分子イオンに適用可能な磁気共鳴検出装置を新たに開発し、分子やクラスターイオンのプロトンNMR分光の基礎的研究を初めて行う。気相イオンの非常に弱いNMR信号を検出するために、NMRセル内に捕捉した試料イオン束の並進温度を極低温に冷却して傾斜磁場内を往復させ、RF磁場をセル両端で印加してスピン分極させる。このスピン分極を種々のRF周波数で飛行時間差として測定し、NMRスペクトルを得る。NMR検出システムを改良し、スピン分極の検証と定量化を進め、NMR分光法を確立する。 平成27年度は、超音速分子線の光イオン化を基礎にしたイオン源の強度を改善するために、新たに進行波型の多段減速器の開発を進めた。シミュレーション計算をベースに最適の減速効果を有するイオン光学系を設計するととも、製作を進めた。またキシレン等の標準イオンを用いて特性評価を行うことにより、従来に比べ非常に明るく、定量的に減速可能なイオン源を完成した。またこの気相イオンをさらに冷却し極低温を実現するために、新たに速度分散補償効果を考慮したNMRセルに組み込み可能な冷却器を発案し開発を進めた。この結果、先に開発した速度選別法と組み合わせることにより、mK以下の極低温イオンを精密に制御しながら生成できることを実証した。今後は、これらの装置を組み合わせて、極低温の閉殻イオンを効率よく生成できるイオン束発生法を確立し、測定原理の検証と気相イオンのNMRスペクトルの研究を進めていく。
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