研究課題/領域番号 |
24350011
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
本間 健二 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (30150288)
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研究分担者 |
松本 剛昭 静岡大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30360051)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エレクトロスプレー / レーザー誘起蛍光 / イオン-トラップ |
研究実績の概要 |
生体高分子などの質量分析に広く用いられているエレクトロスプレーイオン化法と、レーザー誘起蛍光法を結びつけて、これまで孤立分子状態では発光観測が行われてこなかった錯イオンや生体高分子イオンなどの化学種を、発光観測する手段として確立することを目指して研究を進めた。 本年度、エレクトロスプレー-イオントラップ-飛行時間型質量分析装置に次のような改良を行った。(1)イオンファネルを調整し、イオントラップに保持できるイオン量を数倍に上げることができた。(2)8極子イオンガイド、RFトラップなどを調整することによって、チトクロームcなど質量数が1000を超えるタンパク質をトラップに保持し、質量スペクトルを観測できるようになった。(3)8極子イオンガイドの中間にセルを取り付けた。これは、エレクトロスプレー後、キャピラリー-イオンファネル内で溶媒分子を取り去った裸のイオンを生成し、任意の溶媒分子を新たに付着できることを狙ったものである。 このような改良により、より高濃度のイオンをイオントラップに保持し、発光の観測を試みた。発光の観測対象は、これまでRu(bpy)32+イオンの観測を試みてきたが、発光の量子収率などの観点から、より強い発光の期待できるローダミン色素を試みた。532nm光照射による発光観測を試みたが、まだ検出には成功していない。 Ru(bpy)32+イオンについては、溶液中の第1吸収帯である500nm付近のレーザー照射による、光解離反応の観測に成功した。主生成物は配位子が1つ脱離したもので、生成物および解離による減衰をモニターした励起スペクトルの観測が実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
エレクトロスプレーイオン源で生成し、イオントラップに保持した孤立分子状態にあるイオンの蛍光観測を、今年度実現する予定であったが、まだ実現していない。その理由としては、イオントラップに保持できるイオン量が十分ではない、低いイオン量から放出される発光を検出する十分な感度がないことであると考えている。発光観測は、レンズ-光学ファイバー-光電子増倍管によっているが、この集光系は効率が十分高くない可能性がある。より、効率の良い集光系を構築することが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
「達成度」で述べたように、効率の良い集光系を構築することが必要だと考えている。イオントラップ内でレーザーイオン化で生成したイオンについては、レーザー誘起蛍光の観測に成功している。これは、空間電荷極限以下のイオン濃度でも発光が観測できることを示している。エレクトロスプレーイオン化によって生成し、イオンガイドを経てイオントラップに保持できるイオンは、トラップ内でイオン化した時とくらべ、おそらく2桁程度低いと考えられる。いろいろな改良で、2桁多いイオンをガイド・保持しようと試みたが、まだ成功していない。その対応を追求すると共に、より低い濃度のイオンからの発光を観測する、効率の良い集光系は必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、真空紫外レーザー光イオン化などのエレクトロスプレーイオン化以外のイオン源も導入し、イオントラップに保持できるイオン量を増やし、レーザー誘起蛍光観測の可能性を広げる計画であった。しかし、化学的に興味ある対象が少ないこと、予算が予定よりもかかることが明らかになり、断念した。そのため、真空紫外レーザー購入予定予算の一部が次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
イオントラップに保持できるイオン量は、現在の発光集光系で観測するためには十分ではないと考えられる。低いイオン量から放出される発光を検出する十分な感度を得るために、より効率の良い集光系を設計し、構築する予定である。
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