研究課題/領域番号 |
24350013
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
金井 要 東京理科大学, 理工学部, 准教授 (10345845)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 非占有電子構造 / 有機太陽電池 / 有機薄膜 / 逆光電子分光 |
研究概要 |
本件研究では、有機太陽電池関連材料の電子構造、特に、n型材料(電子受容性分子)の固体薄膜のフェルミ準位以上の「非占有電子構造」を明らかにすることを目的としている。電子輸送を担うn型材料にとって非占有電子構造の直接的観測は、本質的に重要である。非占有電子構造の直接的観測は、逆光電子分光法(IPES)を用いることで可能であるが、有機物質のIPESによる研究は実験的な難しさがあり、これまで研究例が限られている。そこで、本研究はIPESを用いて、様々なn型材料材料の非占有電子構造を観測してきた。 平成25年度は、平成24年度に構築した有機薄膜用のIPES装置を用いて、有機太陽電池の代表的なn型材料である、各種フラーレン誘導体の電子構造の研究を行った。これまでに、PCBM、bis-PCBM、PCBO、PC70BM、C70、C60、,ICBA などの固体薄膜を作製し、それぞれのHOMO-LUMOギャップと、その周辺の電子構造を、UPSとIPESを用いて明らかにした。これらのデータの密度汎関数法による分子軌道計算による解析を通して、分子構造と電子構造の関連性を議論した。これらの成果は、国内外の学会で発表を行い、一部のデータ(PC70BM、C70)については論文として発表した。さらに、すでに報告されている有機薄膜太陽電池における、解放端電圧やフィルファクター、短絡電流などの性能を表す幾つかの物理量と、上記のn型材料の電子構造との関連について焦点を当てた詳細な解析を行い、一定の成果を上げている。現在は、これらの解析結果から論文にまとめている。これらのデバイス特性とn型材料の電子構造を直接関連付ける知見は、今後、新規n型材料の開発にとって一つの指針を示す意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に構築した有機試料用IPES装置を有効に活用し、研究をスムーズに進めることができる体制が機能している。また、これまでに有機太陽電池の代表的なn型材料である様々なフラーレン誘導体の電子構造の系統的な知見を得ることにも成功しており、成果発表も順調に行っている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、有機太陽電池のアクセプター材料として知られる様々なフラーレン誘導体のエネルギーギャップ近傍の電子構造を明らかにした。平成26年度では、さらに新たな誘導体の実験に取り組むのと同時に、改良した高電子分光器を用いて、より精度の高い測定や、再現性のチェックを行う。その後、得られたデータの解析結果を、論文にまとめるとともに、国内、国外の関連する学会にて成果発表を行う。 また、フラーレン誘導体のような特徴的な分子構造を持った有機分子が金属単結晶や、金属酸化膜上に吸着した際に形成される、吸着状態由来の非占有電子構造を明らかにする。特に、吸着状態の形成には分子のLUMOが重要な役割を果たしていると思われるため、IPESを用いた精密な観測を行う。これにより、得られるだろう実験結果は、n型材料と電極金属の界面を理解する上で貴重な知見を含んでいるはずである。得られたデータの解析結果を、論文にまとめるとともに、国内、国外の関連する学会にて成果発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度までは、主に、新しく立ち上げた逆光電子分光装置を用いた実験を中心に行って来ており、その実験に集中するために、当初予定していた光電子分光装置の改良の時期が意図的に遅らせた。そのため、平成26年度では光電子分光装置の改良を行うために次年度使用額が生じた。 有機半導体薄膜のより精密な電子構造の観測のために、平成26年10月までに光電子分光装置の改良に使用する計画である。
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