本件研究では、有機太陽電池に関連した有機半導体の電子構造、特に、n型材料(電子受容性分子)の固体薄膜のフェルミ準位以上の「非占有電子構造」を明らかにすることを目的とした。電子輸送を担うn型材料にとって非占有電子構造の直接的観測は、本質的に重要である。非占有電子構造の直接的観測は、逆光電子分光法(IPES)を用いることで可能であるが、有機物質のIPESによる研究は実験的な難しさがあり、これまでの報告例の数は限られている。そこで、本研究はIPESを用いて、様々なn型材料材料の非占有電子構造を観測した。平成26年度は、本プロジェクト初年度に構築した有機薄膜用のIPES装置を用いて、有機太陽電池の代表的なn型材料である、各種フラーレン誘 導体の電子構造の研究を行った。これまでに、PCBM、bis-PCBM、PCBO、PC70BM、C70、C60、ICBA などの固体薄膜に加え、有機エレクトロニクスの新しい電極材料でるAuナノ粒子のフェルミ準位近傍の電子構造を、UPSとIPESを用いて明らかにした。これらのデータの密度汎関数法による分子軌道計算による解析を通して、分子構造と電子構造の関連性を議論した。これらの成果は論文として発表した。本プロジェクトで得られた有機半導体に関する基礎的な知見は今後、有機太陽電池の新規n型材料の開発など、有機エレクトロニクスの材料開発にとって一つの指針を示すものである。
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