研究概要 |
光励起状態の波動関数を制御することができれば,物質の特性を自在に制御することができる。本研究では,ナノ粒子集合体に誘起される光励起状態の動的制御に取り組み,一般性の高い波動関数の時空間制御法を確立することを目標にする。 本研究では,(A)ナノ粒子集合体の特性理解と(B)光励起状態の制御法の構築が不可欠であることから,当該年度は,ナノ粒子集合体の基礎分光特性の理解を図るととともに,光励起状態の可視化制御装置の試作を行なうこととした。以下では,それぞれの項目の研究実績を述べる。 (A)ナノ粒子集合体の配列制御法として,自己集合を用いる方法と電子線描画法を用いる方法が可能である。本年度は,集合構造の光学特性を理解することを目的に,後者の方法を用いて金ナノ円板が正方に配列する集合体を幾つか作製し,集合体の分光測定,近接場透過測定を行なった。近接場透過測定の結果,集合体において観測される透過像は,観測波長また偏光方向により顕著に変化することが明らかとなった,観測結果は,可視化される空間構造が励起状態の波動関数の空間形状を反映すること示唆している。 (B)光励起状態の可視化には,高空間分解能を実現する近接場光学顕微鏡が不可欠である。本年度は,近接場光学顕微鏡に超短パルスレーザーと波形整形技術を組み合わせて,光励起状態の制御のテスト計測に取り組んだ。近接場光学顕微鏡では,光パルスが光学部品を伝播する際にパルス幅が広がり問題となる。 波形整形技術によりこれを軽減し15fsの時間分解能の実現に成功した。さらにテストターゲットとして,表面に凹凸のある金薄膜試料を作製し,表面に誘起される光電場の励起光パルスの波形依存性を測定した。これまでに,光電場の空間構造が励起パルス波形に依存して大きく変化する場合があることを見いだしている。このことは,波形整形により励起状態の動的制御が可能であることを示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
ナノ粒子の配列制御法について,特に自己集合を利用した方法の検討を進めていく計画である。また,光励起状態の制御において,励起光パルスのスペクトル特性や位相特性がどのような影響を及ぼすか,その機構を解明する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は,近隣で開催された学会および研究会に主に参加することで旅費を抑制した。また,論文作成を次年度に繰り越すことで,関係支出を抑制した。次年度は,成果発表のため,複数の国際会議,国内会議に参加予定である。そのため,当初計画より支出の増額を見込んでいる。また,研究成果を複数論文にまとめることを計画しており,英文校閲,別刷代も支出の増額を見込んでいる。その他,物品購入等は,当初予定通り進める計画である。
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