光励起状態の波動関数を時間と空間の両軸で制御すれば,多様な特性を誘起することができる。本研究では,ナノ粒子の光励起状態と原子軌道とのアナロジーに注目し,ナノ粒子集合体に誘起される光励起状態の可視化とその時空間制御を実現することで,分子の光励起状態制御法につながる一般原理を追求することを目的とした。 当該年度は,高精度化した時間分解近接場光学顕微鏡を用いて多様なナノ構造体における動的光励起状態の可視化を行い時空間コヒーレント制御法の検討を行った。まず,複数の単一金ナノロッドを対象とした研究から,単一モード励起ではロッド内部の位置に依存せず位相緩和時間が変化しないこと,位相緩和時間とロッドの体積に負の相関があることを明らかにした。次に,複数モード励起について研究し,可視化される空間構造が時間とともに変化することが明らかとなった。観測される空間特性の変化は,励起されるモードの干渉として説明できることが明らかとなった。この研究成果は,励起光パルスの時間特性を変化させることで光励起状態の空間特性を制御できること,つまり時空間コヒーレント制御が実現可能であることを示す。 ナノ粒子集合体の光励起状態の可視化に関する研究も行い,粒子集合体に特異な光増強場が誘起されることが明らかとなった。また,集合体において観測される増強度は,二量体がもっとも大きく構成粒子数が増えるにしたがって徐々に小さくなることが明らかとなった。この振る舞いは,原子クラスターにおいて原子数が増えるにしたがい励起状態のエネルギーが安定化するのと類似の傾向であり,ナノ粒子集合体に誘起される光励起状態の可視化が分子の光励起状態の特性理解につながることを示す。以上の通り,分子の光励起状態制御法につながる一般原理を追求することに成功した。
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