研究課題/領域番号 |
24350018
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
谷野 圭持 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40217146)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 有機化学 / 天然物化学 / 全合成 |
研究概要 |
本研究の目的は、縮環構造や連続する四級不斉炭素等を含む複雑な炭素骨格の構築において、シアノ基の特性を活かした反応設計を行い、これまでの天然物の全合成を革新する効率的手法を開発することにある。具体的な合成標的として高次構造天然物ツビフェラールA、アザジラクチン、およびフォルボールを設定し、今年度は以下の成果が得られた。 ツビフェラールAは、5員環ラクトンを含む5環性骨格上に多数の官能基を有する複雑な構造を有する。前年度に、両核間位が四級不斉炭素でありトランスに縮環したCD環部の構築を達成したが、26工程を要する効率性の低さが問題となっていた。そこで新たに、ジアステレオ面選択的共役付加反応および分子内エン反応を鍵とする第二世代CD環セグメント合成法を開発し、10工程以上の効率化に成功した。分子左側についても、Sharpless不斉ジヒドロキシル化反応と分子内向山アルドール反応を利用するA環部の不斉合成法を開発した。さらに、Johnson-Claisen転位反応を経て側鎖を導入後、別途合成した光学活性C環セグメントと連結し、ニトリルの分子内アルキル化反応を用いてB環部7員環を効率的に構築した。 アザジラクチンの全合成研究については、ビニルアレンと無水マレイン酸のDiels-Alder反応を鍵とするB環構築法および、分子内アルドール反応を用いるA環構築法を経て、鍵中間体となる環状アリルボランを合成した。この際、A環官能基の保護基の選択が重要であることを見出している。続いて、C8位への側鎖の導入とPd触媒を用いるNazarov環化反応を経てEF環部の構築に成功した。 一方、今年度から新たに着手したフォルボールの全合成研究においては、シアノシクロプロパン誘導体のジビニルシクロプロパン転位を鍵とするAB環部の構築法を確立することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において合成標的化合物として設定した3つの天然物について、いずれも重要な進展が見られた。まず、ツビフェラールAについては、前年度からの課題となっていた分子右側セグメント合成における工程数の大幅な短縮に成功すると共に、分子左側ABC環部の構築法を新たに開発した。アザジラクチンについては、前年度の知見を元に立体選択的に合成したABC環部へのEF環の連結を達成している。また、新たに着手したフォルボールの合成研究も,鍵工程となるジビニルシクロプロパン転位が機能することを確認しており、順調なスタートを切ったといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
3つの標的化合物のいずれについても、合成計画の変更は必要ないと考えており、当初の方針に従って最終年度での完成を目指す。すなわち、ツビフェラールAについては分子右側セグメントへのA環セグメントの連結と、ニトリルの分子内環化によるB環構築を経て5環性骨格を構築する計画である。 アザジラクチンについては、Nazarov環化の収率向上を検討すると共に、A環部の保護基として用いている1,3-ジオキサンの1,3-ジオールへの変換法を確立する。この後、モデル化合物合成において開発した手法を適用し、全合成に到達する予定である。 また、フォルボールに関しては、AB環に対応するヒドロアズレン骨格上での6員環構築法の開発を行う。既に、6員環の足掛かりとなる側鎖の導入法を見出しており、続く分子内環化により5-7-6縮環骨格が構築できると考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度、クエンチ事故により停止状態となっていた270MHz核磁気共鳴装置の再起動におよそ200万円を充てる予定であったが、業者の見積額が仮依頼した時点の倍近くに達したため、断念せざるを得なかった。このために、平成25年度に繰り越すこととなった次第である。 別に保有する500MHz装置のみを用いて1年間を過ごした結果、必ずしも270MHz装置を再起動しなくても研究が遂行可能との見通しが得られた。このため、再起動に備えて繰り越してあった予算については、補助金と合算して使用する計画である。
|