研究実績の概要 |
21世紀における自然と調和した持続的発展には,新発想に基づく「ものづくり」法の確立が急務である。複素環はそれ自身生理活性を示すばかりでなく,医薬,農薬で重要な役割を果たすことから,革新的複素環合成手法の確立が必須である。本研究では,1,3-双極子を活用する複素環合成の革新を行うことを目的に,検討した。 1.アリルアルコールとして2-メチル-2―プロペン-1-オールを基質とし,アゾメチンイミンの不斉1,3-双極子付加環化反応を試みたところ,酒石酸エステル由来の複核キラル反応場の中心金属としてはマグネシウムを選ぶことにより,4級不斉炭素を有する光学活性ピラゾリジンが高レジオ,ジアステレオ,エナンチオ選択的に得られることを見出した。 2.アジリジンジカルボン酸ジエステルから発生するN’-アシルアゾメチンイリドと芳香族イソシアニドとの分子内捕捉反応を試みたところ,炭素側で捕捉された〔3+1〕環化反応生成物が得られることを見出していたが,脂肪族イソシアニドとの反応では,予期に反して〔3+1+1〕環化反応生成物が得られることを見出した。種々のアジリジンジカルボン酸エステルとの反応により対応する5員環複素環を合成することができた。 3.C,N環状N’-アシルアゾメチンイミンとイソシアニドとのUgi型の付加反応を試みたところ,〔5+1〕環化反応が進行することを見出しているが,同じC1カルベン型反応剤として硫黄イリドとの反応を試みたところ,予期に反し環拡大反応が進行し,3-ベンズアゼピン誘導体も生成していることを確認した。硫黄イリドの種類および反応条件について詳細に検討したところ,立体障害の大きい硫黄イリドを用いること等により3-ベンズアゼピン誘導体を選択的に高収率で得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アリルアルコールとして2-メチル-2-プロペン-1-オールを基質としてアゾメチンイミンの不斉1,3-双極子付加環化反応により,不斉4級炭素の構築を目指した結果,生成物の不斉4級炭素を有するピラゾリジンが高エナンチオ選択的に得られることを見出した。保護基の役割をしているピラゾリジノン部位の脱離についても検討しているが,現在のところ脱保護を達成できていない。 N-(プロパルギル)ヒドロキシルアミンから環化-転位を経て得られるcis-2-アシルアジリジンの熱的開環反応によって生成するアゾメチンイミンでは残念ながらイソシアニドとの反応は進行しなかった。しかし,アジリジンとしてアジリジンジカルボン酸ジエステルを選び,それより発生するN’-アシルアゾメチンイリドと脂肪族イソシアニドとの反応を試みたところ,予期に反して〔3+1+1〕環化反応生成物が得られることを見出した。種々のアジリジンジカルボン酸エステルとの反応により対応する5員環複素環を合成することができた。 C,N環状N’-アシルアゾメチンイミンとイソシアニドとのUgi型反応により〔5+1〕環化反応が進行することを見出しているが,イソシアニドに換え,メチレンカルベンとの反応を試みた。C1カルベン型反応剤として硫黄イリドとの反応を試みたところ,予期に反し環拡大反応が進行し,3-ベンズアゼピン誘導体も生成していることを確認した。硫黄イリドの種類および反応条件について詳細に検討したところ,立体障害の大きい硫黄イリドを用いること等により3-ベンズアゼピン誘導体を選択的に高収率で得ることに成功した。得られた生成物の還元的処理により,単環性の3-ベンズアゼピン骨格に変換することができた。 以上,当初の計画の通り進んだ部分が多く,一部未達成であるが,別途新たな知見を得ていることから,おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
アリルアルコールとして2-メチル-2-プロペン-1-オールを基質としてアゾメチンイミンの不斉1,3-双極子付加環化反応により得られる生成物中の2つの不斉炭素の相対立体化学は,海洋天然有機化合物でありα-アドレナリン受容体阻害などの生理活性を有するManzacidin C中の不斉炭素と同じ関係にある。そこで,生成物を利用するManzacidin Cの全合成に引き続きチャレンジする。特に,生成物中で保護基の役割をしていて不要であるピラゾリジノン環の除去を実現し,是非とも全合成を達成し,本手法の有用性を示したい。ピラゾリジノン環のγ位にあるヒドラゾン窒素とβ位の炭素結合を切断することが重要と考えられる。α位アニオンを発生させるのみではE2脱離反応は進行しなかった。硫黄,セレン官能基を導入して酸化的に処理することを試みたが,α,β-不飽和化が進行すると,ピラゾール骨格が芳香属性を持つようになり,反応性が大幅になくなるために修飾が非常に困難になることもわかった。今後は,ピラゾリジノンのアミドカルボニル基の還元を先に行って芳香化することを予め防いだ上で,官能基変換を行うことにより,ピラゾリジノン環の除去を達成して行きたい。 共役拡張型1,3-双極子が1,5-双極子として機能することに関しては,すでに環状N’-アシルアゾメチンイミンにおいて,イソシアニドとの反応において明らかにすることができた。さらに,α,β-不飽和ニトロンについても検討対象とし,1,5-双極子(=共役拡張型1,3-双極子)機能を発現する化学種拡大を図る。α,β-不飽和ニトロンとイソシアニドとの反応は,両者混合したのみでは進行しないことを確認しているので,ルイス酸による活性化を試みる予定である。
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