研究概要 |
【緒言】ルテニウム(II)アコ錯体の多くは、プロトン共役多電子酸化還元を経て高い酸化力を有するRu^v=0種を与えることから、多様な多電子反応の触媒となることが知られている。我々は、2,2':6',2''-ターピリジン(tpy)誘導体を有する単核ルテニウム錯体による水の酸化触媒反応の研究の一環として、[Ru(tpy)(pyqu)(H_2O)]^<2+>(pyqu=2-(2-pyridyl)quinoline)錯体に着目した。[Ru(tpy)(pyqu)(H_2O)]^<2+>錯体には、pyqu配位子のキノリン部位がCl配位子のcisおよびtrans位にそれぞれ位置するcis-[Ru(tpy)(pyqu)(H_2O)]^<2+>及びtrans-[Ru(tpy)(pyqu)(H_2O)]^<2+>の2種の構造異性体が存在するが、これらを選択的に合成・単離するのはこれまで困難であった。本研究では、cis-[Ru(tpy)(pyqu)Cl]^+のアコ化によりcis-[Ru(tpy)(pyqu)(H_2O)]^<2+>が誘導され、その光異性化によりtrans-[Ru(tpy)(pyqu)(H_2O)]^<2+>が生成することを見出した。 【実験】cis-[Ru(tpy)(pyqu)Cl]^+は紫外―可視吸収、^1H-NMR、ESI-MSスペクトル測定により同定された。光異性化反応では、紫外カットフィルター(L-42)を備えたハロゲンランプを用いて可視光照射を行い、^1H-NMRスペクトル変化を追跡した。 【結果と考察】CDCl_3中におけるcis-[Ru(tpy)(pyqu)Cl]^+の_1H-NMRスペクトルでは、pyqu配位子の10Hのプトロトンに帰属されるピークが10.3ppmに観察された。D_2O中では、cis-[Ru(tpy)(pyqu)(H_2O)]^<2+>に対応するピークが8.9ppmに観察された。これより、cis-[Ru(tpy)(pyqu)Cl]^+のCl配位子がD_2Oにより置換され、cis-[Ru(tpy)(pyqu)(H_2O)]^<2+>が生成することが示された。この水溶液に可視光を照射したとき、8.9ppmのピークは減少し、新たに9.5ppmにピークが現れた。類似化合物のNMRスペクトルから、このピークはtrans-[Ru(tpy)(pyqu)(H_2O)]^<2+>に帰属された。この反応収率は25~67%で終結し、反応種と生成種間に光化学平衡が存在することが示された。
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