研究実績の概要 |
水の酸化触媒は、人工光合成系の構築において重要である。二核ルテニウム(II)アコ錯体は近接したアコ配位子を有するため、分子内カップリングによる効果的な水の酸化が期待できる。当研究室では、単核ルテニウムアコ錯体の光異性化1) を利用した二核ルテニウム錯体 (1) の合成、及びその水の酸化触媒活性を報告した。2) 本研究では、酸素発生過電圧を低下させるために電子供与性のエトキシ基3) を導入した誘導体 (2) 、および電極への固定化を目的として末端にカルボキシル基を導入した誘導体 (3) を合成し、これらの電気化学特性および電気触媒活性を研究した。 2および3の前駆体となるクロロ架橋型の二核ルテニウム錯体をそれぞれ合成した(収率20%)。合成した錯体と硝酸銀を水溶液中で加熱することで目的の錯体2および 3 を合成した。1H NMRおよび紫外可視吸収スペクトル測定等により2および 3 を同定した。電気化学測定は作用電極にITO電極を用いて、pH 7.0で行った。無置換の錯体1と比較して、エトキシ基を導入した錯体2の極大吸収波長は10から15 nm長波長側にシフトした。これは電子供与性置換基によってルテニウムのd軌道が不安定化されたためと考えられる。微分パルスボルタンメトリーを測定した結果、錯体2の酸化波は0.61, 0.79, 1.06 V vs SCE に観測され、錯体1と比較すると、エトキシ基導入によりそれぞれ70, 80, 30 mV低電位側にシフトした。また、水の酸化に基づく触媒電流の立ち上がりも100 mV低電位側で観測され、電子供与性置換基により電気触媒として効果的に働くことが示された。
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