研究実績の概要 |
最終年度は、ビオローゲンを側鎖に有する各種光分子デバイスの合成と触媒機能評価を中心に取り組んだ。まず、[Ru(bpy)3]2+に対して、12分子のMV2+を導入した分子デバイスの光多電子貯蔵機能、及び光水素生成反応への応用について検討した。各分子デバイスに対し、犠牲還元剤であるEDTA存在下、酢酸緩衝溶液中(0.1 M, pH = 5.0)で可視光照射(400-800 nm)を行ったところ、MV+種に帰属される吸収帯の増大が確認された。詳細なスペクトル解析の結果、一分子あたり6-7電子の貯蔵が起こっていることがわかった。この結果から、これらのデバイスは、他に類を見ない光多電子貯蔵機能を示すことが明らかとなった。また、電気伝導度測定の結果、高い正電荷を持つ各分子デバイスは、水溶液中でカウンターアニオン種(PF6-など)とイオン対会合体を形成することが示された。このことから、これらの分子デバイスは、EDTA(YH4)のジアニオン種(YH22-;pH = 5.0における相対存在率は93%)とイオン対会合体を形成することで逆電子移動よりも速くEDTAからRu(III)への電子注入が起こり、効果的に電子貯蔵を達成していると考えられる。更に、水素生成触媒である白金錯体共存下では水素生成が効率よく進行することが示された。一方、二段階光励起(Z-Scheme)型の単一分子光水素生成触媒である、ターピリジン骨格を有する白金錯体(PV2+)にビオローゲンを複数導入した新規錯体PVCn(n=3-6)を合成し、その光水素生成触媒機能についても評価した。EDTA(30 mM)と触媒PVCn(0.1 mM)を含む0.1M酢酸緩衝溶液(pH = 5)に300WのXe灯(300-550 nm)を12時間照射したところ、各種のPVCnはPV2+よりも格段に高い水素生成触媒活性を示すことを見出した。
|