研究課題/領域番号 |
24350036
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
藤浪 眞紀 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50311436)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 陽電子 / マイクロビーム / 原子空孔 / 二次元分布 / 塑性変形 / 転位 / 金属 |
研究概要 |
これまで純鉄とステンレス鋼に関して,昇温脱離分析による知見と陽電子の欠陥選択能を利用した陽電子寿命測定法と対比しながら欠陥形成について議論してきた。その結果,純鉄およびSUS304両方とも同様の結果が得られ,水素による空孔クラスターの形成促進が実証された。一方,これらの手法はバルクの平均情報にすぎず,ダンベル型試料においてはゲージ部全域で大きな差は観察されていない。破断という局所的な現象においては,非破壊的かつ局所情報取得可能な測定法により破断箇所を予測して議論することが重要である。本申請により開発した陽電子プローブマイクロアナライザー(Positron probe microanalyzer, PPMA)により,純鉄およびSUS304の破断部周囲の欠陥情報に関しての知見を得ることをH25年度の研究目的とした。 PPMA結果において,同一歪量で延伸した水素チャージ材では水素なし環境での試料に比較して,全体的にS値は大きく空孔型欠陥の形成促進がみられた。特に破断部近傍での差が顕著である。水素チャージ材では破断部近傍1 mmでバルク材に比べて7~11%のS値の上昇がみられている。特に破断部近傍200 μmで急激に上昇しているが,水素なし材ではこのような上昇は100 μm領域でしか観察されていない。水素チャージ破断材のゲージ部での陽電子寿命は410 ps(20%)であったが,破断部近傍では530 ps(20%)となった。これは破断部近傍でのS値の上昇は,空孔クラスター濃度のみならずサイズの増大を反映していることを示している。また,300 °Cでアニールしても破断部近傍のS値はほかより高く,空孔クラスターサイズによるアニール温度の差異の表れと考察される。なお,SUS304でも同様の傾向が確認されており、水素脆化は純鉄と同じ機構で起こっていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請で開発した陽電子プローブマイクロアナライザーにより,金属の破断現象における破断部近傍での空孔挙動を明瞭に示すことに成功した。これは本法が,非破壊分析法であることによるものであり,それにより同一試料での欠陥挙動追跡が可能になったためである。また,陽電子寿命測定が可能となり,これまで濃度が増加したのか,サイズが増加したのか不明であったが,今回空孔サイズの増大との確証をえることができたのは画期的である。今後,さらなる応用展開を図り,空孔型欠陥が関与する未解明問題について,挑戦していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に得られた結果を基にして,PPMAによる金属等破壊現象における格子欠陥の挙動に関して,さらなる新知見獲得を目指し,その研究成果を公表していく。また,引き続き,意図的に空孔-不純物複合欠陥を表面数nm層に導入した試料を測定し,不純物同定・定量の可能性を評価する。それにより開発手法の装置性能を定量的に示していく。 空間分解能が数十nmに達したとすれば,半導体デバイスの局所構造における格子欠陥解析が応用のスコープに入ってくる。例えば,LOCOS(Local oxidation of silicon)構造において,SiO2膜先端でのひずみ場誘起の欠陥検出,CuやAl等の微細配線におけるエレクトロマイグレーション誘起の欠陥検出等への応用を計画する。微細な積層構造をもつ半導体デバイスは局所的なひずみ場(つまりは欠陥場)が形成され,それらが不純物の異常拡散につながり電気特性に影響を与えるといわれている。それらを本申請で開発する計測法で実験的に証明し,材料・プロセス設計のブレイクスルーに大いに資する分析法となることを示す。 最終年度としては高強度陽電子源利用の検討を行う。産総研と高エネ研には加速器ベースの陽電子発生装置があり,放射性同位元素よりも二桁ほど初期ビーム強度が高い。申請者がチームリーダーを務めていたJST先端計測・分析機器開発事業「透過型陽電子顕微鏡」(H17から21)プロジェクトの一環で,上記と同様の陽電子マイクロビームラインが両施設にはすでに配置されている。今回開発する装置をこれらのビームラインに接続し,さらに質の高いデータ取得を試みることも検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度に陽電子発生源である22Naの購入を予定していたが,その半減期と研究に必要な時期を考慮すると平成26年7月に購入したほうが効率的と考えて,次年度使用とした。 本申請で開発したPPMAによる成果との比較のために,従来法との結果が必要となる。22Na陽電子源を用いて,従来法による陽電子寿命値を求め,その比較から,破断試料の局部に集積した格子欠陥種および量をバルクの平均値との差を議論する。
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