研究課題/領域番号 |
24350040
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
井原 敏博 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (40253489)
|
研究分担者 |
櫻井 敏彦 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10332868)
今堀 龍志 東京理科大学, 工学部, 講師 (90433515)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | DNAコンジュゲート / 有機分子触媒 / 再構成触媒 / バイナリープローブ / シクロデキストリン / 加水分解 / マイケル付加 |
研究概要 |
DNA末端に様々なブレンステッドの酸や塩基を修飾したDNAコンジュゲートを合成した。具体的には、イミノ二酢酸、EDTA、グルタミン酸、プロリン、エチレンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミンなどである。これらのDNAコンジュゲートをテンプレートDNA上で組合わせて、構成的に有機分子触媒を構築する試みを行った。反応としては炭素-炭素結合生成反応を選んだ。Michael付加、Aldol反応により発色する分子を基質として、合成したDNAコンジュゲートライブラリーの様々な組合わせを試したが、反応を著しく加速させる条件(組合わせ)を見出すことはできなかった。 上記の問題は、酸/塩基の組合わせだけでなく、基質の濃縮にあると考え、標的とする反応を加水分解にして、さらに系を大きく変更することにした。DNAコンジュゲートの一つとして、β-シクロデキストリン(βCyD)修飾DNAを用いることにする。包接反応により基質が濃縮されることを期待している。もう片方のDNAコンジュゲートとしてはジピコリルアミン(DPA)を用いる。DPAがβCyD に包接された基質の近傍にZn2+を運び、基質の加水分解を促進することを期待している。 一点修飾によりチオールを導入したβCyDを合成した。DNA末端に導入したアミノ基にSPDPを化学修飾し、チオール化βCyDとのカップリングによりβCyD-DNAを合成することができた。一方、DPA-DNAも常法にしたがって合成することに成功した。両コンジュゲートは逆相HPLCにより精製し、MALDI-TOF MSによって同定した。最終年度はこの系により加水分解反応の触媒をDNA上に構築するための検討を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イミノ二酢酸、EDTA、グルタミン酸、トルエンスルホンアミド、プロリン、エチレンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミンなどの様々なブレンステッドの酸や塩基をDNAの末端に修飾して、DNAコンジュゲートライブラリーを調製した。ライブラリーの中から2種類のコンジュゲートを選択し、これらがテンプレート上にならんでハイブリダイスしてタンデム二本鎖を形成し、修飾基である酸と塩基が対峙するように配置した。これら、酸/塩基により活性化され、Michael付加により発色する色素を基質として、さらに、反応物(求核剤)として溶液中には過剰のアセトンを添加した。プレートリーダーを用いて、上記DNAコンジュゲートの可能な全ての組合わせに関して、二本鎖構造が期待されるpH5から9の範囲で網羅的に反応の進行を観察した。しかしながらタンデム二本鎖により有意に反応を加速する条件を見出すことはできなかった。反応が加速されない大きな理由の一つは、基質を反応サイト近傍に有効な濃度で濃縮することができていないことと考えている。よって、今年度は使用するDNAコンジュゲートの一つとして、包接により反応サイトに基質を濃縮することが期待されるβCyDを修飾したDNAを用いることにした。
|
今後の研究の推進方策 |
活性エステルの加水分解の系においては、Dpa-DNAの亜鉛錯体とβCyD-DNAコンジュゲートを用いる。多くの亜鉛錯体がエステルの加水分解を触媒することが既に知られている。反応サイトにはDNAテンプレートの中心付近でβCyDとDpa-Zn2+錯体が対峙した状況を作る。基質がβCyDに包接されることで反応サイトに濃縮され、近くのDpa-Zn2+錯体が加水分解を促進することを期待している。Michael付加、あるいはAldol反応の系においては、Dpa-DNAの亜鉛錯体の代わりに、これまで用いてきたブレンステッドの酸/塩基を修飾したDNAコンジュゲートを用いる。具体的には単独でも有機分子触媒になり得るプロリンを修飾したコンジュゲートなどが有望と考えられる。 当初は、触媒系を見出した後にはPCRにより得た一本鎖DNA試料をテンプレートにした応用研究を行う予定であったが、次年度に先送りすることにした。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初は、触媒反応を推進する適当な酸/塩基の組合せを見つけて、速度解析、エナンチオ選択性の検討など、その触媒活性を詳細に検討する予定であった。しかしながら有効な組合せを見つけることができなかったので、構造を様々に変化させた基質を調製することにした。コストの高いDNAコンジュゲートではなく、実験が典型的な有機合成による基質合成に切り替わったためDNA合成・精製に使用する予定であった費用を使わずに次年度にまわすことにした。 βCyDとDpaを修飾したDNAコンジュゲートをそれぞれ合成する。修飾末端、リンカー長などの異なる複数のDNAコンジュゲートを合成する必要がある。さらに、有効な触媒系を見出した後にはその組合わせのコンジュゲートのみをさらに増量して、構造解析、速度解析等に供する必要があるため、物品費(消耗品代)として多額の予算を使用する。
|